龍谷大学

ブータン王国ケサン王女が龍谷大学にて特別講演会「国民総幸福度(GNH)政策―仏教思想の理念が国民総幸福度政策にどの様に活かされたのか―」を実施

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2011年2月14日、龍谷大学大宮学舎において、ケサン・チョデン・ワンチュク王女殿下による特別講演会「仏教国ブータン王国の国民総幸福度(GNH)政策―仏教思想の理念が国民総幸福度政策にどの様に活かされたのか―」が開催された。今回の講演会は、同大法学部の冨野教授が昨年度政策調査のためにブータン王国を訪問した際にできた縁から実現したものである。

 今回の講演会は、第2回「KYOTO地球環境の殿堂」(主催:京都環境文化学術フォーラム)においてブータン第4代国王シグミ・シ ンゲ・ワンチュク陛下が殿堂入りすることになり、陛下の名代としてケサン王女殿下が来日されるのにあわせて開催された。
 講演の概要は以下の通り。
(概要文責:鍋島直樹(龍谷大学人間・科学・宗教オープンリサーチセンター長))

特別講演 成果概要
A Summary of Special Address

ブータン王国 アシ・ケサン・チョデン・ワンチュク王女殿下
Her Royal Highness Princess Ashi Kezang Choden Wangchuk, The Kingdom of Bhutan

仏教国ブータン王国の国民総幸福度(GNH)政策
The Program for Gross National Happiness in the Buddhist Kingdom of Bhutan
―仏教思想の理念が国民総幸福度政策にどの様に活かされたのか―

The Buddhist Values Expressed in the Gross National Happiness Index

●プログラム Program
●開幕挨拶 Opening Address
●若原 道昭 (龍谷大学学長 Dosho Wakahara, President of Ryukoku University)
●特別記念講演 Special Address
  ケサン王女殿下 (H.R.H. Ashi Kezang Choden Wangchuk, The Kingdom of Bhutan)
    「仏教国ブータン王国の国民総幸福度(GNH)政策」
    Gross National Happiness: Bhutan’s Development Philosophy
●トークセッション Dialogue
  ケサン王女殿下 (ブータン王国第四代国王王女、H.R.H. Ashi Kezang Choden Wangchuk)
  V. ナムゲル (ブータン王国大使 V. Namgyel, Ambassador of Bhutan)
  カルマ・ツェテーム (GNHコミッション次官 Karma Tshiteem, Secretary, Gross National Happiness Commission)
  桂  紹隆 (龍谷大学アジア仏教文化研究センターセンター長・宗教部長・文学部教授 Shoryu Katsura, Director of Research Center for Asian Buddhist Culture, Professor, Faculty of Letters, Ryukoku University )
  鍋島 直樹 (龍谷大学人間・科学・宗教・オープン・リサーチ・センターセンター長・法学部教授 Naoki Nabeshima, Director of Open Research Center for Humanities, Science, Religion, Professor, Ryukoku University)
 ・コーディネーター Coordinator
  三谷 真澄 (龍谷大学国際文化学部准教授 Masumi Mitani, Associate Professor, Faculty of intercultural Studies, Ryukoku University)
●閉幕挨拶 Closing Address
  赤松 徹真 (龍谷大学文学部長 Tesshin Akamatsu, Dean, Faculty of Letters, Ryukoku University)
●日時: 2011年2月14日(火) 午前10時30分~午後12時30分
●場所: 龍谷大学大宮学舎 東103教室 参加者500名
●主催: 龍谷大学 人間・科学・宗教・オープン・リサーチ・センター
      龍谷大学 アジア仏教文化研究センター
●共催: 京都環境文化学術フォーラム

■ご挨拶  (龍谷大学学長 若原道昭)
 ブータン王国と日本との国交樹立25周年にあたる今年、ケサン王女殿下をお招きして本学でご講演をいただけることは誠に光栄なことです。ブータン王国は、世界有数の仏教王国であり、2008年に立憲君主制に移行し、男女平等や情報政策の推進など民主化と近代化を強力に進めています。ブータン王国は、1970年代から、国民総生産ではなく、仏教思想に基づく国民総幸福の理念と政策を導入し、国民の幸福とともに人と自然の調和を尊重し、世界に向って新しいあり方を示しています。ケサン王女殿下は、国民総幸福度センターの創立者でもあるとうかがっています。本日のご講演では、ケサン王女殿下より直接にGNH政策についてお話をうかがう機会をいただき、心から感謝申しあげます。ブータン王国のナムゲル駐印大使によれば、ブータン王国は仏教の心によりながら、経済的な成長と精神的な幸福とのバランスをはかっています。
 科学技術それ自身は、本質的に自らの意思をもっていません。何らかの目的を持って科学技術を制御するのは人間です。人間の欲望には際限がない。人間の欲望を制御するのは宗教です。そのような視点から、本学では人間・科学・宗教の融合を掲げてきました。本学は親鸞聖人の精神に基づき、創立370年の歴史をもって仏教研究にも長い伝統を有しています。その中でも、人間・科学・宗教・オープン・リサーチ・センターとアジア仏教文化研究センターは、文部科学省に採択された大型研究プロジェクトです。本講演会はこれら二つの研究センターの主催によって実現したものであり、学術的な真価を広く世界と共有することを願っています。さまざまな困難の中で、本講演会の開催のためにご尽力いただいた関係者すべての方々に厚く御礼申し上げます。仏教を建学の精神として掲げる龍谷大学にとって、ブータン王国のケサン王女殿下の記念講演は、本学にふさわしいご縁であり、皆様とともに豊かな実りを感じ取っていただけることを念願します。重ねてケサン王女殿下に御礼申し上げます。

■特別講演 成果概要
アシ・ケサン・チョデン・ワンチュク王女殿下 ブータン王国
Her Royal Highness Princess Ashi Kezang Choden Wangchuk
The Kingdom of Bhutan
仏教国ブータン王国の国民総幸福度(GNH)政策
The Program for Gross National Happiness in the Buddhist Kingdom of Bhutan

The responsibility for the wording of this article lies with Naoki Nabeshima.

《講師紹介》
 ケサン・チョデン・ワンチュク王女(HRH Ashi Kezang Choden Wangchuk)は、ブータン王国第四代国王陛下のジグメ・シンゲ・ワンチュク国王(His Majesty Jigme Singye Wangchuck)の第四女にあたる。
 地球環境の保全に貢献した人を顕彰する2011年の「KYOTO地球環境の殿堂」(The Earth Hall of Fame Kyoto in 2011)の受賞者の一人に、ブータン王国のジグメ・シンゲ・ワンチュク前国王が選ばれた。ケサン・チョデン・ワンチュク王女は、父親であるシグメ・シンゲ・ワンチュク前国王の名代として初来日した。ケサン・チョデン・ワンチュク王女は、王家の生まれながら、高校まで公立学校に通った。大学を卒業後、父親に「開発に取り残された人々を支援するよう」に指導されて、出産間際まで、1年の大半は首都ティンプーから遠く離れた村々を巡回した。ケサン王女は、ブータン王国の国民を訪ねて、人々の声を聞き、国民総幸福の政策を実現するために中心的役割を果たしている。
 2011年2月、ケサン王女は初めて京都に訪問し、その美しい微笑で人々の心を慰めた。ケサン王女は、龍谷大学において、聡明で先見性のある講演をおこなった。彼女はその特別講演において、経済成長の開発モデルから国民総幸福度に転換する重要性を、私たち日本の人々に伝えた。

※ケサン王女のご講演の英語版と日本語版は、ブータン王国の許可をいただき、出版できる予定である。ただし、ケサン王女のご講演の英語版と日本語版については、責任ある編集を経て後に公開したい。そこで、この成果報告では、そのケサン王女の講演、ならびに対談を抜粋してまとめ、ブータン王国の国民総幸福の真価を謙虚に学びたいと思う。京都府環境学術フィーラム様の篤いご後援によって、この講演が開催できたことを心より感謝申し上げたい。(文責 鍋島直樹(人間・科学・宗教・オープン・リサーチ・センター長))

 はじめに
 本日は、ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク(Jigme Khesar Namgyel Wangchuck第五代国王と、私の父であるジグメ・シンゲ・ワンチュク(Jigme Singye Wangchuck)第四代国王の命を受け、ブータン王国より皆様の幸福ためにメッセージをたずさえて訪問しました。私の家族もブータン王国の国民も、皆様のすばらしい日本、すなわち、技術革新によって最も高いレベルの経済的繁栄をもたらし、産業界の躍動と協調の精神に尊敬の念をもつものです。すばらしい文化と平和を愛する国に初めて訪問した機会に、父国王によって考えられた国民総幸福度について皆様と共有できますことを心からうれしく感じております。・・・中略・・・
 
 国民総幸福度の理念
 国民総幸福度の理念は、これは国民の心からの訴えに対する父の応答でした。この世界が物質的な豊かさと一握りの世代の繁栄のためだけに略奪されていることに対する父の不満から生まれたものです。このGNHは従来型の知恵にチャレンジした父の勇気を反映するものであり、生命の意味と目的を熟考して生まれました。父は国の目標として国民の幸福を宣言したのです。父の統治機関、最も優先順位の高いものとして追及されるものとなりました。GNHは幸福度、幸福を追求するのに可能な状況を作り出すことよりも、高次のレベルの開発はありえないとしました。幸福度の理解とはこういうものです。物質的な充足と心と精神の成長のバランスが、平和的でほどよく、持続可能な環境において保たれていることそうした状態を示します。・・・中略・・・
 国王陛下の父がよく語っていた言葉を引用します。
 「GNHは人々の親切心、平等、人間性という根本的価値と経済的成長を追い求めていく必要性との橋渡しをしていくものである。」
 Here I quote His Majesty the King who said,
 "I believe GNH today is a bridge between fundamental values of Kindness, equality, and humanity and the necessary pursuit of economic growth”.
・・・・・・中略・・・・・・
 
 GNHの4つの柱と9つの領域
 ブータン王国での幸福への追求は、最も広いレベルで、四つの柱、すなわち、四つの目標を同時に追求することであります。すべての社会・経済的プログラムは、わが国の若い民主主義の政治的発展を含めて、これらの柱の強化に従うものであります。
 その四つの柱とは、
1)持続可能にして平等な社会・経済的発展、
2)環境保全
3)文化振興
4)すぐれたガバナンスの強化
であります。
The four pillars and goals to achieve Gross National Happiness
a. Sustainable and equitable socio economic development
b. Environmental conservation
c. Promotion of culture
d. Enhancement of good governance

 真の富や繁栄とは、回復力のある環境の中で人間の生活を洗練し、未来を予測可能でより安全なものにし、そして地球や家族の結びつきを強くするものでなければなりません。GNHの富の継承は、協力、社会資本、安らぎを促進するものでなければなりません。決してウォール街で追求されているような幻想的ではかない富であってはならないのです。
 GNH指数を開発するにあたって、四つの柱はさらに九つの領域に分けられ、人の生活のすべての面を反映しています。すべてが個人と社会の全体的(ホーリスティック)発展に不可欠であると考えられています。
第一の柱を形成するのが、生活水準、健康、教育、
第二の柱を築いているのが、生態学的健全性、
第三の柱に含まれるのが、文化、精神的な幸福、時間の利用、地域社会の活力、
第四の柱に含まれるのが、すぐれたガバナンス、すなわち、民主主義、平等、正義
であります。・・・・・・中略・・・・・・

 ブータン王国の幸福
 今日のブータンは、ほとんど全く脅かされていない自然感興を自負することができます。それは環境問題が深刻な地球問題となる遥か前から環境保全に尽力してきたからであります。憲法では永続的に森林面積が国土の最大6%を占めることを約束され、実際、今日のブータンでは緑地面積が国土の72%以上を占めています。そのお蔭で、外の同じ地理的条件下で通常見られるよりも、はるかに豊かな生物多様性の宝庫となっています。我々の文化と伝統、ブータン人の生活の仕方の基本は、このグローバル化した地球の一員となった今も意気盛んであります。我々はさまざまな国際的フォーラムに参加することによって多くの友情と励ましに恵まれてまいりました。父の数多くの功績の中でも、最も顕著なのは、ブータン王国が2008年に民主主義に展開したことであります。父はこのように生涯の大望を成し遂げ、53歳で王位から退位いたしました。偶然にもこの退位の行われた直前の国勢調査で、王国の97%の人々が自らを幸福であることを明らかにしたのであります。このことにより、ブータンは発展モデルの代替モデルとして、関心の的となったのであります。・・・・・中略・・・・・・

 日本への提言
 最後に、一つの考えを皆様にあずけたいと思います。多くの国同様、日本は経済的繁栄の頂点を経験し、これからは低い経済成長、そして高齢化社会に立ち向かわなければなりません。そのような時は困難な課題が山積し、創意工夫と勇気が求められています。しかし一方で、往々にして、慣れ親しんだ道を選び、従来と同じ対策を講じるという誘惑にかられます。たとえそれがよくても一時的な効果しかなく、長期的により危険であるとわかっていてもです。ただ私は信じています。世界全体も変革することが求められていますが、日本は必ずや変化するでありましょう。独自のやり方で変わっていくと信じています。その中でも恐れ多くもGNHを提案させていただきたいと思います。GNHパラダイムによって、有用なアイディアが生まれ、新しい日本の再生、真に繁栄した日本の再生につなげることができるのではないでしょうか。日本は世界をリードし、より幸せで持続可能な生活に導く勇気と才能を持ち合わせていることを確信しています。
ご清聴いただきどうもありがとうございました。

■対談 トークセッション
コーディネーター 三谷真澄(龍谷大学国際文化学部准教授):
 ブータンは、GNHという幸福の新しい指標を提言したことで欧米から注目され、資本主義社会の閉塞感、経済的豊かさでは満たされない人間の幸福のあり方、森林保護や環境施策の観点からも注目を集めています。
 タイム誌で毎年発表される「世界で最も影響力のある100人」の2006年リスト(Leaders & Revolutionariesの中)には、第4代国王のジクメ・シンゲ・ワンチュク(1955-、1974戴冠)が入っています。今回、「KYOTO地球環境の殿堂」入りの表彰によって、世界的な知名度は非常に高まっています。
 これから、アシ・ケサン・チョデン・ワンチュック王女殿下のご講演を受けて、アジア仏教文化研究センターの桂紹隆所長、人間・科学・宗教・オープン・リサーチ・センターの鍋島直樹所長から、ケサン王女のご講演に対するレスポンスをいただき、それを受けて、ヴェツォプ・ナムギャルブータン王国大使(インド常駐)、カルマ・ツェテームGNH委員会次官への質疑応答を行いたいと思います。

レスポンス  桂 紹隆(龍谷大学アジア仏教文化研究センターセンター長・文学部教授):
 ブータン王国では、仏教に基づく宗教教育をどのように教育に反映させているでしょうか。(※桂先生のご質問のみをここに収録しました。)

ナムゲル(V. Namgyel Ambassador of Bhutan ブータン王国大使):
 仏教は国の宗教です。ブータンの教育では、仏教を教義として伝えるというよりも、人生生活のあり方として教えます。ブータンの人々は仏教徒として生まれ、家庭の中で両親家族から仏教を学び、学校教育の中で、国語の教科書などを通じて、仏教の考え方に触れていきます。これをこれからも続けてつづけていきたいと思います。また、僧侶やその特別な機関も仏教の考え方が人としてとるべき道であることを人々に伝えています。重要なのは、正しい態度、正しい行動をとるということであると思います。

カルマ氏(Karma Tshiteem GNHコミッション次官):
 学校の集会は仏教の礼拝から始まります。GNHを政治や政策に反映させる際、それはただちに宗教ではないかもしれませんが、仏教の影響があるといえます。学校では礼拝のほかに、仏教から普遍的な価値、すなわち、親切さ、他人への思いやりなどを学びます。先生は模範になります。相互の関係が大切ですので、子どもたちは先生に尊敬をもって話をします。また、瞑想も学校教育で取り入れられています。大人になれば、どうしてもストレスや競争にさらされます。ですから、瞑想によって、自己を穏やかにし、ストレスを緩和することを学ぶわけです。仏教はブータンの精神的な依りどころであり、単に教育だけでなく、生活全般にわたって尊重されているといえるでしょう。

レスポンス 鍋島 直樹(龍谷大学人間・科学・宗教・オープン・リサーチ・センター長):
ロイヤル ハイネス プリンセス ケサン チョデン ワンチュック王女様
王女のお父様、ブータン王国第四代の国王陛下、ジグメ・シンゲ・ワンチュク前国王におかれましては、キョウト地球環境の殿堂を受賞されましたこと、誠におめでとうございます。ブータン王国の皆様が、地球環境の保護、生物多様性の保全に今まで貢献してきたことを心から尊敬いたします。また本日は、龍谷大学において、ケサン王女より、ブータン王国の国民総幸福度に関する特別記念講演を賜り、心から感謝いたします。王女の講演を聞いて深く感動しました。
 ロイヤル ハイネス プリンセス ケサン王女のご講演にレスポンスするご縁をいただきありがとうございます。自己紹介をすることをお許しください。私は鍋島直樹と申します。龍谷大学教授、人間・科学・宗教・オープン・リサーチ・センター長として、本学で仏教の思想、特に、平和と非暴力、あらゆるいのちへの慈悲と寛容さについて講義しています。龍谷大学は仏教、特に日本浄土教の親鸞聖人の精神に基づいて建てられた大学です。「苦悩を超えた真実を求め、真実に生き、真実を顕かにする」、それが親鸞聖人による建学の精神です。他との関係性なくして存在するものはない。そういう縁起の真理に照らしてみると、自己中心的な生き方、排他的なあり方を反省し、他によって生かされているという自覚と感謝と謙虚さをもって生きることが大切であることに気づかされます。
 Your Royal Highness Princess Kezang Choden Wangchuk,
 Congratulations on the induction for your father, the 4th king of Bhutan, High Majesty Jigme Singye Wangchuck into The Earth Hall of Fame Kyoto in 2011. We Japanese all deeply appreciate that the kingdom of Bhutan has contributed to conservation of the global environment and biodiversity. I wish to thank you for the special lecture on Gross National Happiness in the Buddhist Kingdom of Bhutan that you gave today at Ryukoku University. I was deeply moved by your lecture.
 It gives me great pleasure to have the opportunity to respond to your lecture. First, allow me to introduce myself. I am Naoki Nabeshima. I have been teaching Buddhism, especially topics on nonviolence, compassion and tolerance, which, of course, is inclusive of the natural environment, as professor and director of the Open Research Center for Humanities, Science and Religion, at Ryukoku University in Kyoto, Japan. The University is a Buddhist based institution, of the Shin Buddhist School, founded by Shinran (1173-1262) in Japan. "Seek for the truth transcending sufferings, live in the truth and clarify the truth". This is the Spirit of Ryukoku University. There is nothing that exists independently, in itself alone. From this truth of interdependence, we learn that we must reflect on our egocentric, divisive tendencies and, with deepening awareness that we live dependent on others, grow in gratitude and humility.

 私はブータン王国が大好きです。ブータン王国は、ダルシン(Dhar Shing)という経文が印刷された薄い布地が風にはためいています。どこまでも美しい田園風景と山々がつづいています。素晴しい光景です。とはいえ、まだ行ったことはないのですが、ぜひ行ってみたいです。
 私はケサン王女のブータン国の法律に深い感銘を受けました。なぜなら、2008年に制定されたブータン王国の憲法が仏教の真理に基づいているからです。精神的財産について、ブータン王国の憲法第三条には、こう明記されています。
 「仏教はブータンの精神的財産であり、なかでも平和、非暴力、慈悲と寛容の原則と価値を推し進めるものである。」
 さらに、GNHの理想は、2008年に制定されたブータン王国の憲法の第九条にもこう明記されています。
「ブータン国は、国民総幸福の追求ができるように必要条件を推進することに尽くす。国は、虐待、差別、暴力から自由になる市民社会をつくり、この法律に基づいて、人間の権利と尊厳の保護、そして人々の基本的権利と自由を確保するように努めなければならない。」
 I love your happy country of the King of Bhutan. In the kingdom of Bhutan, So many Dhar Shing, which is a small flag with printing Buddhist Sutra, are fluttering in the wind. There are beautiful fields, rivers and mountains. Your great country has wonderful sceneries. Although I have not visited the Kingdom of Bhutan yet, I love your great country. I would like to visit your great country someday so much.
 I am very impressed by the constitution of your country, which is based on Buddhist truth.
 Spiritual Heritage is spelled out in the Constitution of the Kingdom of Bhutan, Article 3. 
 "Buddhism is the spiritual heritage of Bhutan, which promotes the principles and values of peace, non-violence, compassion and tolerance."
Further, the pursuit of GNH is manifested in the Constitution of the Kingdom of Bhutan, Article 9.
 "The State shall strive to promote those conditions that will enable the pursuit of Gross National Happiness. 3. The State shall endeavor to create a civil society free of oppression, discrimination and violence, based on the rule of law, protection of human rights and dignity, and to ensure the fundamental rights and freedoms of the people.”

 世界中の人々は、ブータン王国の国民総幸福度に高い関心を寄せています。ブータン第四代国王 ジグメ・シンゲ・ワンチュク国王陛下は「国民総幸福は、国民総生産よりも重要である」と宣言しました。また、国王は次のように発表なさいました。「従来の開発モデルは、究極の目標として経済成長を強調している。GNH(国民総幸福度)の概念は、物質的発展と精神的発展が互いに補完しあい強化するように並んで行なわれる時に、人間社会の真の開発がうみだされることを礎にしている。GNHの4つの柱は、「持続可能で公平な社会経済開発」、「文化的価値の保護と推進」、「自然環境の保全」、そして「良い統治の確立」である」。そのようにジグメ・シンゲ・ワンチュク前国王はおっしゃいました。
 People around the world are very interested in Bhutan's concept of Gross National Happiness. The 4th King of Bhutan, High Majesty Jigme Singye Wangchuck, promulgated GNH since the beginning of his reign in 1972. Happiness of the people was made the guiding goal of development. The 4th King of Bhutan has stated, "Gross National Happiness [GNH] is more important than Gross National Product [GNP]." He also said, "While conventional development models stress economic growth as the ultimate objective, the concept of GNH is based on the premise that true development of human society takes place when material and spiritual development occur side by side to complement and reinforce each other. The four pillars of GNH are the promotion of equitable and sustainable socio-economic development, preservation and promotion of cultural values, conservation of the natural environment, and establishment of good governance."
 GNH is centered on 9 domains consisting of time use, living standards, good governance, psychological well-being, community vitality, cultural vitality, health, education, and environmental conservation. GNH is brought by a balance between material and spiritual development. Holistic, people-centered, participatory and balanced development is the very essence of the GNH philosophy.

 私は、仏教は、縁起の真理に基づいていると理解しています。縁起とはあらゆるものが相互に依存し、関係しあっていることです。一つひとつの存在が相互に支えあう世界においてはかけがえのない意味をもっています。ブータン王国では、この縁起の教えを尊重し、自己と他の一切の生命との関係性を尊重しています。自分の生命を尊重するとともに、他人の生命を尊重しています。輪廻転生の見方は、生きとし生けるものが生まれ変わり死に変わりながら、家族であることを教えるものでしょう。だからこそ、他人を思いやり、森林を保護し、動物などのあらゆる生命を慈しんで生きることが、ブータンの人々にとって、功徳を積むことになると考えられていると思います。親鸞聖人も、「一切の有情はみなもて世々生々の父母兄弟なり」と語っています。自分ひとりだけの幸せを祈るのではない。相手の幸せを願うことが、ついには自己の幸せにつながることになるのではないかと思います。
 そこで、これに関連してお尋ねしたいと思います。ブータン王国の人々は、どのようなことが幸せだと感じるのでしょうか。縁起の真理、輪廻転生からの解脱という仏教思想と、GNH(国民総幸福度)とはどのように関連しているでしょうか。
 I believe that Buddhism is based on the truth of dependent origination. That means that all beings and things are mutually dependent. Each individual existence has an integral meaning in an interdependent world. In the Kingdom of Bhutan, this teaching of dependent origination is respected, and the relationships between oneself and all other living beings are also respected. Just as one respects one’s own life, one likewise respects the lives of others. From the perspective of rebirth and transmigration, all living things that live, perish, and are reborn, are our family. For this reason, I believe, the people of Bhutan think that such things as being considerate toward others, preserving forests, and compassionately regarding all living beings including animals are themselves the creation of merit. Shinran also said, “In the past, all beings have been our mothers and fathers, sisters and brothers.” One cannot wish only for one’s own happiness. Hoping for the happiness of others is itself what leads to one’s own happiness.
 In this regard, Royal Highness Princess Kezang, I wonder if you would be able to tell us. For the people of Bhutan, what kinds of things are considered to be happiness? How is the relationship between Buddhist thoughts and Gross National Happiness?

 私はケサン王女の記念講演を聞いて、伝統的な仏教文化を保護し、経済的な発展と心の豊かさとのバランスをとることが重要であることを学びました。その精神は、仏教の中道の精神に基づいていると感じます。中道とは、両極端に偏らず、バランスをとりながら、心穏やかな道を歩むことでしょう。
 歴史をふりかえってみると、日本の社会は、欧米に学び、勝れた科学技術を開発し、大きな経済的成長を遂げてきました。しかし一方で、日本は人類の経済的利潤を追求するあまり、生命の尊重を忘れ、地球環境も壊す結果を生み出しました。自殺者もとても多いのです。21世紀の日本は経済的にも、精神的にも安らぎがなくて苦しんでいます。一握りの人々の幸福のために、国民多くの人々の生活が犠牲になってはなりません。
 ロイヤル ハイネス ケサン王女が提唱してくださったように、日本は、経済的発展のみをめざすのではなく、国民総幸福度の考え方を導入していくべきであると思います。一人ひとりのいのちが生き生きと輝き、人と人の絆を育み、心に幸せを感じることのできる世界を構築していくことが強く願われます。心の幸福と先端技術の平和的利用との両方が実現してこそ、日本は世界に愛される国となるでしょう。
 阿弥陀仏の大悲の光にいだかれて、煩悩を離れることのできない自己を知ります。人は弱く、ひとりでは生きていけないからこそ、互いに許しあい、助け合って、世の安穏のために生きていくことができればと私は願っています。
 When looking back on the history, Japanese society, following the lead of European and American countries, has developed advanced scientific technologies and has achieved great economic growth. However, unfortunately, Japan has sought only on economic profit that benefits human beings, and the result has been that we have forgotten about respect for life and have destroyed the natural environment. There are also a great number of people who commit suicide. Currently, in Japan, both economically and spiritually, we have no peace of mind and greatly suffer.
 As your Royal Highness Princess Kezang Choden has proposed, we should not only seek for economic development. We should also introduce philosophy and polity of Gross National Happiness. If it was realized, Japanese can fill with happiness both economically and spiritually.
 I know that I am embraced by Amida Buddha’s light of compassion that I cannot escape from blind passions. But it is my hope that, although human beings are weak and cannot live each individually, we can forgive each other, help each other, and work together for the peace and tranquility of the world.

カルマ氏(Karma Tshiteem GNHコミッション次官):
 鍋島先生より深遠なお話をいただきありがとうございます。先生と私たちはいろいろな考えを分かち合うことができました。私たちはGNHに基づく公共政策づくりに取り組んでいます。ダルマキング(Dharma King)と呼ばれている第四代前国王陛下がGNHを提唱した際には、仏教をベースに立案しました。ブータン王国では、すべての分野において仏教からの影響を受けています。すべての人々の生活に仏教からの影響を受けています。文化と伝統はつねに仏教と結びついています。すこし例をあげてお話したいと思います。現在の第五代国王陛下は、ブータン王国の全国各地を視察して、多くの子どもや学生たちと交流します。子どもたちがブータンの未来を担うからです。国王陛下がGNHについて子どもたちと話しをする時、「あなたは英雄になりたいか、それとも悪徳になりたいか」と尋ねます。すると多くの子どもたちは英雄になりたいと応えます。人生においては常に選択をしないといけない場面に出くわします。その際には、善につながる選択でなくてはならないことを国王陛下は子供たちに考えさせるのです。これは仏教思想の八正道に基づいています。(1)正見(正しい見解、真実の信知)、(2)正思惟(正しい内的態度、決意)、(3)正語(正しい言語)、(4)正業(正しい行為)、(5)正命(正しい生活法、職業倫理)、(六)正精進(正しい努力、勇気)、(7)正念(正しい注意)、(8)正定(正しい瞑想、精神統一)です。またこのような例もあります。大きな企業は、GNHをビジネスにおいても反映させています。利益だけでなくそれ以外の要素も重んじます。その際、バランスが重要になります。利益のためには、ある程度の犠牲を払わなければなりません。しかしボトムラインにおいては、優しさ、寛容さ、誠実さなど基本的なものが重んじられます。我々ブータン王国の発展がGNH政策の影響を受けているということは、仏教思想の恩恵を受けているということと等しいことです。どうもありがとうございました。

ナムゲル氏(V. Namgyel, Ambassador of Bhutan ブータン王国大使):
 ありがとうございます。鍋島先生よりブータン王国の人々にとって、何が幸せであるかという質問をいただきました。それは、ブータンの人々が人生生活の中で何を重要視しているかということでしょう。私たちの国で、2008年に国民総幸福度に関する国勢調査を行いました。人生に対して重要なものは何かを国民一人ひとりに尋ねました。まず一番目に、幸せのために「家族との生活」が大切であると98%の国民が応えました。二番目に、「責任感」が重要であると91%の国民が答えました。三番目に、「キャリアにおける成功」が重要であると90.3%の国民が答えました。そして四番目に、「精神的な信仰」が大切であると89%の国民が答えました。「財政的な安定」が重要であると87.5%の国民が答えました。そして「友情」(81.1%)、「物質的な豊かさ」(79.2%)です。そして、GNHには、この物質的豊かさと精神的な幸せとのバランスが必要であります。また次に、仏教思想とGNHとがどのように関係しているかということについてもご質問いただきました。仏教とは中道の精神です。悲しみを取り除き、欲望を抑制しなければならない。それが中道ということであり、バランスを維持するということであります。中道とは、精神的な欲望、文化的な欲望、物質的な欲望の調和、融和であります。さまざまな欲望の融和を実現することができれば、地域社会の調和を維持することができ、国の調和を維持することができ、ついには世界の調和につながることができるでしょう。それが実際の仏教思想とGNHとの関わりであると思います。また、私たちは礼拝、祈りをささげます。その祈りは個人のための祈りではありません。寺院に行って仏に礼拝する時には、私たちはすべての祈る人々の幸せを祈ります。すべてのもののために祈るという時には、もちろん自分も含まれていますけれども、すべての生きとし生けるものの幸せを祈るのです。このように仏教思想とGNHとが融合しています。どうもありがとうございました。


ケサン・チョデン・ワンチュク王女殿下の美しい微笑みと明晰で穏やかな講演は、会場を包み込み、それは余韻となって今も心に響いている。
(文責 鍋島直樹(人間・科学・宗教・オープン・リサーチ・センター長))


▼本件に関する問い合わせ先
 龍谷大学人間・科学・宗教 総合研究センター
 担当:木村
 TEL: 075-645-2154
 
 龍谷大学人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター
 http://buddhism-orc.ryukoku.ac.jp/
 龍谷大学アジア仏教文化研究センター
 http://buddhism-orc.ryukoku.ac.jp/

2059 講演中のケサン王女殿下

2060 トークセッションの様子

2061 GNH政策の柱