神奈川工科大学

テレビの映像多重化を可能にする汎用ソフトウェア「ExPixel」の開発に成功――神奈川工科大学

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神奈川工科大学情報学部情報メディア学科の白井暁彦准教授ら研究グループは、従来不可能な技術とされてきた直視型ディスプレイにおける映像多重化と、裸眼による隠蔽画像を実現するソフトウェア技術「ExPixel」の開発に成功。フランスと日本国内で一般向け公開実験を実施し、好評を博した。

 神奈川工科大学情報学部情報メディア学科の白井暁彦准教授ら研究グループは、従来不可能な技術とされてきた、直視型ディスプレイにおける「映像多重化」と「裸眼による隠蔽画像」を同時に実現する汎用ソフトウェア技術「ExPixel」の開発に成功した(図1)。

  【下図1: 市販の液晶フラットパネルディスプレイによる映像多重化】

■映像多重化のための汎用ソフトウェア技術「ExPixel」
 従来、映像多重化技術「Scritter」(※)は偏光フィルタとDLPプロジェクターを用いることで構成され、PCモニターや携帯電話用ディスプレイとして広く普及している液晶フラットパネルでの実現は原理的に不可能とされていた。こうした中、白井准教授ら研究グループは数年にわたる研究を経て、民生品として広く普及している円偏光を用いた「パッシブ3D形式」の直視型ディスプレイにおいて広く利用できる映像多重化のための汎用ソフトウェア技術「ExPixel」を開発。液晶プロジェクターでの実現に成功した。

 「ExPixel」の特徴としては、 (1)汎用的なパッシブ3Dディスプレイで利用できる、(2)ライン・バイ・ラインの画像処理による映像多重化、(3) GPUを利用した100%ソフトウェアの技術である、(4)視聴者側に電気的な機器を必要とせず応用可能性が広い、(5)コンテンツ開発が容易である、という5点が挙げられる。

 このたびの「ExPixel」の開発により、従来の「Scritter」で実現してきた映像多重化・隠蔽技術による幅広いアプリケーション、すなわち(1)プレゼンテーションの多言語化、(2)教育向け応用、(3)医療画像向け応用、(4)聴覚障碍者向け応用、(5)動画共有サイトのコメント表示、(6)カラオケ応用、(7)2D+3Dハイブリッド上映「2x3D」、(8)デジタルサイネージのインタラクティブ化「Ubicode」などが、すべてフラットパネルディスプレイで活用可能となる。

  【下図2: 多重化隠蔽映像の概念図】
  【下図3: 多重化シェーダーによりライン・バイ・ラインの画像を生成する】

 図3に「ExPixel」の模式図を示す。処理はGPU(Graphics Processing Unit、パソコン内部で画像を生成する処理装置)内部にて行われ、「多重化シェーダー」によりライン・バイ・ラインの画像を生成。動画や実写カメラ、ゲームなどの映像を、「裸眼」(赤)と「裸眼で視聴できないもうひとつの映像」(緑)の2チャンネルの映像にリアルタイム処理で生成する。これにより、Unity3D等の一般的なコンテンツ生成ツールと市販のPCでも、幅広いアプリケーションを開発することが可能となる。

■未来のリビングルーム向けのデモ「FamilinkTV」を一般市民に向け実験展示
 フラットパネルディスプレイによる映像多重化は、「テレビゲームと放送視聴」「映像視聴とパソコン利用」などのように、家庭用としての付加価値が大きい。そこで、白井准教授ら研究グループは、未来のリビングルーム向けの技術デモとして「FamilinkTV」を開発し、ヨーロッパ最大のバーチャルリアリティの祭典Laval Virtual 2014(2014/4/9-13)および、厚木市に新たにオープンした複合施設「アミューあつぎ」のグランドオープンイベント「未来のゲームセンター」(2014/4/26-27)において一般向け実験展示を行ったところ、家族連れなどを中心に大きな反響を得ることができた。

・「FamilinkTV」コンセプトビデオ
 https://www.youtube.com/watch?v=Zfgn5P_UStQ
・フランス「Laval Virtual 2014」での発表(5日間・15,000名の来場者)
 http://www.laval-virtual.org/en/exhibitors/list-of-exhibitors/124-familink-tv-kanagawa-institute-of-technology.html
・アミューあつぎ「未来のゲームセンター」ダイジェスト映像(2日間・2572名の来場者)
 https://www.youtube.com/watch?v=TDGfHuq26X4

 なかでも「大型テレビや携帯電話によるデジタルコンテンツ視聴が、家族の団らんを分断している」という、現代のリビングルームに対する問題の投げかけに注目が集まり、その解決方法のシンプルさ、可能性が大きな共感を得た。また、市販のハードウェアを改造しないで実現している点も評価が高く、「3Dディスプレイの流行のあとに付加価値を加える、完全にプラスの技術」として期待されている。

 白井准教授は今後「画質の改善、多チャンネル化、デジタルサイネージ、教室・ビジネス会議室用モニターといった業務用途でのパートナーを探し、近い将来開催されるオリンピックでの市場に向けて、世界的な普及・規格化を実現させたい」と考えている。

(※)参考:多重化隠蔽映像技術「Scritter」について
 「Scritter」は、2010年より白井暁彦准教授が中心に進めている、3Dディスプレイ互換のプロジェクターに付加価値を与える映像多重化技術の研究の通称。ScritterはScreen+Twitterの造語で、「スクリーンを見ながらツイッターが利用できる」というコンセプトを表現している。複数のユーザが同一のスクリーンを画面分割なしに共同視聴できるシステムで、通常の裸眼視聴のユーザに加え、偏光フィルタのみで構成されたメガネを着用した利用者にまったく異なる映像を表示することができる技術である。電気的な機構は必要とせず、液晶シャッター眼鏡などを装着することで、偏光フィルタとコントラスト圧縮方式と呼ばれる独自のアルゴリズムにより、複数の裸眼視聴者に対して任意の動画像を隠蔽することができる。白井准教授ら研究グループはこの技術を用い、これまでにも片眼に偏光フィルタ、他方を裸眼とすることで3Dステレオ映像を実現するハイブリッド2D/3Dディスプレイ方式「2x3D」(2012/10/25)などを発表してきた。

  【下図4: 多重化ディスプレイ技術のロードマップ・白井准教授による】

▼本件に関する問い合わせ先
 神奈川工科大学 工学教育研究推進機構
 〒243-0292 神奈川県厚木市下荻野1030
 担当: 山本 博一
 TEL: 046-291-3218
 E-mail: ExPixel@shirai.la
 http://blog.shirai.la/projects/expixel/

【注】 本記事は表現を平易にするため、2014年5月9日 9時55分 に一部改定しました。(大学通信)

5319 図1:市販の液晶フラットパネルディスプレイによる映像多重化

5320 図2:多重化隠蔽映像の概念図

5321 図3:多重化シェーダーによりライン・バイ・ラインの画像を生成する

5322 図4:多重化ディスプレイ技術のロードマップ・白井准教授による