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北里大学理学部の片桐晃子教授と錦見昭彦准教授らが、リンパ球の細胞接着の制御機構を解明――免疫難病の治療法の開発へ期待

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JST 戦略的創造研究推進事業において、北里大学理学部の片桐晃子教授と錦見昭彦准教授は、関西医科大学の木梨達雄教授らと共同で、免疫細胞の1つであるリンパ球が細胞内の小胞輸送を制御する分子Rab13によって、接着や移動を制御する機構を明らかにした。なお、本研究成果は2014年7月29日(米国東部時間)に米国科学雑誌「Science Signaling」に掲載された。

■ポイント
・リンパ球(注1)が適切に移動するためには細胞内の接着因子(注2)が細胞前方に集積することが必要であるが、集積の仕組みは不明であった。
・Rab13タンパク質が「荷札」の役割を担って、接着因子を細胞前方に集積させる仕組みを解明。
・免疫難病の新たな治療法の開発が期待される。

■研究の背景と経緯
 リンパ球は異物から生体を守る際に、血管を離れて組織に移動したり、抗原提示細胞と呼ばれる細胞から侵入した異物の情報を受け取ったりする。この過程で、リンパ球は血管内皮細胞や抗原提示細胞と接着する必要があり、これら細胞との接着が不十分な場合、組織への移動や異物に対する応答が生じなくなる。リンパ球が他の細胞と接着する際、細胞内にあるLFA-1が、小胞輸送(注3)と呼ばれるたんぱく質輸送システムにより、細胞前方の先端部へと輸送され集積し、細胞表面に新たな膜を形成する。LFA-1が集積した膜の形成により接着力が増し、他の細胞と安定して接着することができるようになる。片桐教授らは、ケモカイン(注4)や抗原(異物)の作用により、Mst1というキナーゼ(注5)が働くことで、このようなLFA-1の輸送が制御されていることを明らかにした。しかし、実際にどのような分子が輸送に関与しているのか、また、どのような経路をたどって運ばれているのかといった具体的な輸送機構は解明されていなかった。

■研究の内容
 一般にたんぱく質の小胞輸送は、Rabファミリーとよばれるたんぱく質群により制御されており、ほ乳類には60種類以上のRabたんぱく質が存在している。Rabたんぱく質は、物流システムでいうところの「荷札」のような役割をしており、それぞれのRabたんぱく質ごとに、どの小胞を認識し、どこからどこへ輸送するかが決まっている。片桐教授らは、Mst1と相互作用するRabたんぱく質を探索し、Rab13がLFA-1の細胞内での小胞輸送を制御していることを突き止めた。
 さらに詳細に解析したところ、Mst1によってDENND1Cというたんぱく質がリン酸化されて機能を持つようになること、DENND1Cの機能によりRab13が活性型になる(「荷札」として有効になる)ことが明らかになった。活性型Rab13は、Mst1と会合することで輸送小胞にとどまるとともに、モーターたんぱく質(注6)ミオシンと会合して複合体を形成し、ミオシンが、アクチン繊維(注7)というケーブル上を動くことにより、LFA-1を含む小胞が輸送されることが分かった。また、Mst1の下流でVASPというたんぱく質もリン酸化され、アクチン繊維を目的の方向に伸ばしていることも明らかになった。Rab13を働かなくしたリンパ球では、細胞表面でLFA-1が集まらず、細胞の接着活性や運動能が低下していた。また、Rab13を持たないマウスを作製したところ、リンパ節などへのリンパ球の移動ができず、これらの臓器の発育状態が悪いことがわかった。
 これらのことから、Rab13が機能することにより、LFA-1が細胞内を輸送されて、細胞膜の局所に集積すること、また、Rab13機能が破綻すると、リンパ球の接着や移動ができなくなり、免疫機能が損なわれることが明らかになった。

■今後の展開
 リンパ球が正常に機能するためには、その生体内移動が適切に制御されなくてはならない。今回の成果は、その制御機構の詳細を明らかにしたものであり、リンパ球を中心とした全身性の動的免疫システムの理解に貢献するものと考えられる。また、多くの疾患やウイルス感染に細胞接着の異常が関与していることが知られているが、免疫システムの異常に起因する疾患の病態の解明や新たな治療法の確立にも役立つと期待される。

■用語解説
(注1)リンパ球
 白血球の一種であり、免疫応答の司令塔的役割を担うヘルパーT細胞、ウイルスに感染細胞などを攻撃する細胞傷害性T細胞、抗体を産生するB細胞などがある。
(注2)接着因子
 細胞表面に発現するたんぱく質で、細胞同士、あるいは、細胞と細胞外マトリクスとの接着に関与している。
(注3)小胞輸送
 細胞内におけるたんぱく質などの輸送形態の1つ。輸送する物質を小胞(脂質でできた小さな袋のようなもの)に内包し、細胞内小器官(小胞体やゴルジ体など)や細胞膜へ輸送するシステム。小胞が細胞内を輸送される様が、荷物が運送されていく過程に似ていることから、物流システムに例えられて細胞内ロジスティクスと呼ばれることもある。
(注4)ケモカイン
 リンパ節や感染局所で発現しているたんぱく質で、リンパ球を誘引する作用を持つ。
(注5)キナーゼ
 他の分子をリン酸化することで構造を変化させ、標的分子の活性や性質を制御する酵素。
(注6)モーターたんぱく質
 アクチン繊維や微小管といった細胞骨格上を動くことで、小胞の輸送を担うたんぱく質。物流システムでいうところの、トラックや貨車の役割に相当する。
(注7)アクチン繊維
 細胞骨格の一種で、細胞の形態や運動を制御しているが、小胞輸送においてはモーターたんぱく質の通り道として、道路や線路のような役割をする。

■論文名
 “Rab13 acts downstream of the kinase Mst1 to deliver the integrin LFA-1 to the cell surface for lymphocyte trafficking”
 (Rab13はMst1の下流で機能する分子としてLFA-1の極性輸送を制御し、リンパ球の動態に不可欠な役割を担っている)

※詳細は添付PDFを参照。

▼研究に関する問い合わせ先
 片桐 晃子(カタギリ コウコ)
 北里大学 理学部 生物科学科 免疫学講座 教授
 〒252-0373 相模原市南区北里1-15-1
 TEL: 042-778-9534
 FAX: 092-778-9480
 E-mail:  katagirk@kitasato-u.ac.jp

▼JSTの事業に関する問い合わせ先
 川口 貴史(カワグチ タカフミ)
 科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
 〒102-0076 東京都千代田区五番町7  K’s五番町ビル
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