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多くの謎に満ちている彗星を解き明かす!ホームズ彗星の起源と増光現象のメカニズムを初めて解明 -- 京都産業大学

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京都産業大学神山天文台の新中善晴研究員をはじめとする研究グループは、2007年10月に観測されたホームズ彗星(17P/Holmes)の爆発的増光現象の発生直後の中間赤外線観測データより、ホームズ彗星の起源と増光現象の発生メカニズムを初めて解明した。

 ホームズ彗星(17P/Holmes)は、太陽のまわりを約7年で公転する彗星で、2007年5月に近日点(太陽からの距離:2.05天文単位)を通過し、2007年10月下旬、太陽から約2.4天文単位の距離に位置していた頃、爆発的な増光が起こった。この爆発的な増光現象の正体は、これまでの研究で大量の塵(ダスト)放出にあることを突き止められていたが、どうして爆発的な増光が起こったのかは解明されていなかった。

 京都産業大学神山天文台の新中善晴研究員をはじめとする研究グループは、爆発的な増光現象が起こった当時に国立天文台すばる望遠鏡で観測された、ホームズ彗星の波長10ミクロン(10μm=100分の1ミリメートル)という中間赤外線波長域における分光データの詳細な解析を行なった。

 彗星核に含まれるダストには、星間空間にはほとんど存在しない結晶質のシリケイト(ケイ酸塩)鉱物が含まれていることが知られている。この結晶質シリケイトは、元は星間空間でアモルファス(非晶質)状態であったものが太陽近傍で結晶化することで生成すると考えられており、定性的には太陽から遠方ほど結晶質ダストの存在度が小さくなると予想されていた。
 新中研究員らによる分光データの解析結果より、ホームズ彗星が他の彗星に比べて結晶質シリケイトが少ないことを明らかにした。これは、ホームズ彗星が他の彗星に比べて太陽からより遠く離れ、冷たい場所で誕生したとともに、多くの揮発性物質を含んでいる可能性があることを示している。揮発性の高い氷が含まれている彗星では、低い温度で昇華(固体からガスになること)する一酸化炭素等の氷や、水のアモルファス氷(低い温度で結晶質に変化し爆発的な昇華のエネルギー源になる)が豊富に存在すると考えられ、それらの爆発的な昇華によるダスト放出が原因となり、ホームズ彗星はこれまで知られている中で最大規模の爆発的な増光を起こしたことを突き止めた。

 これまで増光現象を示す彗星がいくつか観測されていたが、その原因は複数の説が混在しており、決定的な観測事実が得られぬままとなっていた。
 今回の新中研究員らの観測結果は、そうした状況に一筋の光を当てた、重要な成果と言える。今後、さらに同様な増光現象の観測を今回と同様の手法で継続することにより、彗星という天体の不思議な性質が明らかになることが期待される。

<論文について>
タイトル: Mid-infrared spectroscopic observations of comet 17P/Holmes immediately after its great outburst in 2007 October
     (2007年10月の大増光直後のホームズ彗星の中間赤外線分光観測)
著 者:新中 善晴(京都産業大学・神山天文台)
   大坪 貴文(航空宇宙研究開発機構(JAXA))
   河北 秀世(京都産業大学・神山天文台/理学部)
   山口 充(京都産業大学・理学研究科)
   本田 充彦(久留米大学・医学部自然科学教室)
   渡部 潤一(国立天文台・副台長/天文情報センター)

掲 載 紙:The Astronomical Journal
掲 載 日:2018年11月1日(木)

※本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号:15J10864、17K05381)の助成を受けて行われた。

むすんで、うみだす。  上賀茂・神山 京都産業大学

※図1: 2007年10月25日(爆発2.1日後)にすばる望遠鏡で撮影したホームズ彗星の画像(中間赤外線波長)。観測は、爆発的な増光が起こった後、2.1日後から5.2日後まで連続して行われた。等高線は100--400mJy/ピクセルを50mJy/ピクセル刻みでプロットしている。

※図2:ホームズ彗星の中間赤外線スペクトル。波長10μm付近に、シリケイト(ケイ酸塩)ダストからの熱輻射ピークが見られる。細かいピークが結晶質シリケイトによるもので、このピークの位置によってシリケイトに含まれるマグネシウム:鉄の比率(Mg:Fe比)が分かる。図中の複数の縦線が異なるMg:Fe比のピーク位置を示しており、マグネシウムに富んだダストであることが分かる。灰色のハッチは地球大気のオゾン(O3)の強い吸収が見られる波長範囲を示す。

関連リンク
・京都産業大学「神山天文台」
 https://www.kyoto-su.ac.jp/observatory/
・爆発的な増光をしたホームズ彗星は太陽から遠く冷たい場所で誕生した
 https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20181101_859_comet.html
・すばる望遠鏡 観測成果
 https://subarutelescope.org/Pressrelease/2018/10/31/j_index.html

▼本件に関する問い合わせ先
京都産業大学 神山天文台
 河北 秀世 教授
 新中 善晴 研究員
 Email: kawakthd@cc.kyoto-su.ac.jp(河北)
 Email: yoshiharu.shinnaka@cc.kyoto-su.ac.jp(新中)

20181126_01.jpg 図1: 2007年10月25日(爆発2.1日後)にすばる望遠鏡で撮影したホームズ彗星の画像 (中間赤外線波長)

20181126_02.jpg 図2:ホームズ彗星の中間赤外線スペクトル