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東京工科大学(東京都八王子市、学長:大山恭弘)応用生物学部の吉田亘准教授と松井徹教授らの研究グループは、がんや中枢神経疾患のバイオマーカーとして期待される、ゲノムDNAのヒドロキシメチル化レベル(注1)を、試薬を混合するだけで簡便かつ迅速に測定できる方法を開発しました。
同グループでは、同一のプラットフォームを用いてゲノムDNA全体のメチル化レベルを測定する方法(注2)を開発しており、これに本手法を組み合わせることで、より正確な疾病診断への応用が期待されます。
本研究成果は、6月3日にアメリカ化学会が出版する「Analytical Chemistry」オンライン版に掲載されました(注3)。
【研究背景】
ヒトゲノムDNAのCpG (注4)配列中のシトシンは、DNAメチル化酵素によりメチル化され、これにより遺伝子の発現が制御されていることが知られています。またDNA脱メチル化反応に関連する酵素としてメチルシトシン酸化酵素が同定されており、この酵素によってメチルシトシンはヒドロキシメチルシトシンへと酸化されます。正常細胞では正常なメチル化パターンが形成されていますが、がん細胞などの異常な細胞ではゲノムDNA全体のメチル化やヒドロキシメチル化レベルが低下することがわかっています。また、これらの修飾状態の異常は、がん細胞だけでなく、アルツハイマー病などの中枢神経疾患でも報告されていることから、これらの疾病の診断のためのバイオマーカーとしての応用が期待されています(図1)。
既存の高速液体クロマトグラフィー法などのメチル化やヒドロキシメチル化レベル測定法では、煩雑な操作が必要でした。同グループでは、試薬を混合するだけで40分以内にメチル化レベルを測定できる方法を開発しています。本研究では、これと同一のプラットフォームにより、ヒドロキシメチル化レベルを測定する方法を開発することを目的としました。
図1:ゲノムDNA中のメチルシトシンとヒドロキシメチルシトシン
これら修飾塩基の異常な状態は、がんや中枢神経疾患のバイオマーカーとしての利用が期待される。
【研究成果】
ヒドロキシメチル化レベルを測定するために、ヒドロキシメチル化CpG結合タンパク質であるUHRF2のSRA domain(注5)に着目しました。まず、UHRF2 SRAにホタル由来の発光タンパク質であるルシフェラーゼ(注6)を融合させたタンパク質(UHRF2 SRA-Fluc)を組換え生産しました。UHRF2 SRAは、ヒドロキシメチル化CpGだけでなくメチル化CpGにも結合することから、UHRF2 SRAのメチル化CpGへの結合を阻害するため、メチル化CpG結合タンパク質であるMBD(注7)も組換え生産しました。次に、DNAインターカレーター(注8)とMBDを結合させたヒトゲノムDNAを調製し、UHRF2 SRA-Flucとルシフェラーゼ発光基質を加えました。その結果、UHRF2 SRA-FlucがヒトゲノムDNA中のヒドロキシメチル化CpG部位で発光し、近傍のインターカレーターを励起することが示されました。
またこの蛍光強度は、ヒトゲノムDNAのヒドロキシメチル化レベルに依存することも示しました(図2)。これらの結果から、標的ゲノムDNAにUHRF2 SRA-Fluc、MBD、インターカレーター及びルシフェラーゼ発光基質を混合し、蛍光強度を測定するだけで、ヒドロキシメチル化レベルを40分以内に測定できることが確認されました。
図2:ゲノムDNAのヒドロキシメチル化レベル測定法の原理
UHRF2 SRA-Flucがヒドロキシメチル化CpGに結合すると、ルシフェラーゼの発光によりDNAインターカレーターが励起され、蛍光が示される。全ての反応は同一溶液内で生じるため、試薬を混合するだけの操作で測定が可能である。
【社会的・学術的なポイント】
本手法を用いることで、ゲノムDNAのヒドロキシメチル化レベルを、試薬を混合するだけで簡便かつ迅速に測定できることが示されました。脳におけるヒドロキシメチル化レベルの低下は記憶力の低下に関与することも報告されており、生活習慣病やストレス、老化などによる神経細胞への損傷度やそれに伴う記憶障害の制御機構を解明することにも貢献すると期待されます。
ヒトゲノムDNAのCpG (注4)配列中のシトシンは、DNAメチル化酵素によりメチル化され、これにより遺伝子の発現が制御されていることが知られています。またDNA脱メチル化反応に関連する酵素としてメチルシトシン酸化酵素が同定されており、この酵素によってメチルシトシンはヒドロキシメチルシトシンへと酸化されます。正常細胞では正常なメチル化パターンが形成されていますが、がん細胞などの異常な細胞ではゲノムDNA全体のメチル化やヒドロキシメチル化レベルが低下することがわかっています。また、これらの修飾状態の異常は、がん細胞だけでなく、アルツハイマー病などの中枢神経疾患でも報告されていることから、これらの疾病の診断のためのバイオマーカーとしての応用が期待されています(図1)。
既存の高速液体クロマトグラフィー法などのメチル化やヒドロキシメチル化レベル測定法では、煩雑な操作が必要でした。同グループでは、試薬を混合するだけで40分以内にメチル化レベルを測定できる方法を開発しています。本研究では、これと同一のプラットフォームにより、ヒドロキシメチル化レベルを測定する方法を開発することを目的としました。
図1:ゲノムDNA中のメチルシトシンとヒドロキシメチルシトシン
これら修飾塩基の異常な状態は、がんや中枢神経疾患のバイオマーカーとしての利用が期待される。
【研究成果】
ヒドロキシメチル化レベルを測定するために、ヒドロキシメチル化CpG結合タンパク質であるUHRF2のSRA domain(注5)に着目しました。まず、UHRF2 SRAにホタル由来の発光タンパク質であるルシフェラーゼ(注6)を融合させたタンパク質(UHRF2 SRA-Fluc)を組換え生産しました。UHRF2 SRAは、ヒドロキシメチル化CpGだけでなくメチル化CpGにも結合することから、UHRF2 SRAのメチル化CpGへの結合を阻害するため、メチル化CpG結合タンパク質であるMBD(注7)も組換え生産しました。次に、DNAインターカレーター(注8)とMBDを結合させたヒトゲノムDNAを調製し、UHRF2 SRA-Flucとルシフェラーゼ発光基質を加えました。その結果、UHRF2 SRA-FlucがヒトゲノムDNA中のヒドロキシメチル化CpG部位で発光し、近傍のインターカレーターを励起することが示されました。
またこの蛍光強度は、ヒトゲノムDNAのヒドロキシメチル化レベルに依存することも示しました(図2)。これらの結果から、標的ゲノムDNAにUHRF2 SRA-Fluc、MBD、インターカレーター及びルシフェラーゼ発光基質を混合し、蛍光強度を測定するだけで、ヒドロキシメチル化レベルを40分以内に測定できることが確認されました。
図2:ゲノムDNAのヒドロキシメチル化レベル測定法の原理
UHRF2 SRA-Flucがヒドロキシメチル化CpGに結合すると、ルシフェラーゼの発光によりDNAインターカレーターが励起され、蛍光が示される。全ての反応は同一溶液内で生じるため、試薬を混合するだけの操作で測定が可能である。
【社会的・学術的なポイント】
本手法を用いることで、ゲノムDNAのヒドロキシメチル化レベルを、試薬を混合するだけで簡便かつ迅速に測定できることが示されました。脳におけるヒドロキシメチル化レベルの低下は記憶力の低下に関与することも報告されており、生活習慣病やストレス、老化などによる神経細胞への損傷度やそれに伴う記憶障害の制御機構を解明することにも貢献すると期待されます。
【用語解説】
(注1) ヒドロキシメチル化: メチルシトシン酸化酵素により、メチルシトシンが酸化されてヒドロキシメチルシトシンが生成する反応
(注2) (1) Anal. Chem. (2016) 88, 9264; (2) Anal. Chim. Acta (2017) 990, 168; (3) Anal. Lett. (2019) 52, 754; (4) Anal. Bioanal. Chem. (2019) 411, 4765
(注3) 論文名「Quantification of global DNA hydroxymethylation level using UHRF2 SRA-luciferase based on bioluminescence resonance energy transfer」 (URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.1c05619 )
(注4) CpG: シトシンとグアニンの連続した塩基配列で構成されるDNA
(注5) UHRF2 (Ubiquitin like with PHD and ring finger domains 2)のSRA(SET- and RING-associated) domain: ヒドロキシメチル化CpGに結合するタンパク質ドメイン
(注6) ルシフェラーゼ:発光反応を触媒するタンパク質
(注7) MBD (Methyl-CpG-binding domain): メチル化CpGに結合するタンパク質ドメイン
(注8) インターカレーター: DNAに結合する蛍光色素
【研究支援】
本研究は、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団からの助成を受けたものです。
■東京工科大学応用生物学部 吉田亘(エピジェネティック工学)研究室
ゲノムDNAやRNA中の修飾(エピジェネィック修飾)や四重鎖構造などの核酸の特殊高次構造に着目し、それらの生体機能の解析や新規検出方法の開発を行っている。
[主な研究テーマ]
1.疾患関連遺伝子のエピジェネィック修飾塩基測定法の開発
2.人工発光タンパク質を利用したゲノムDNA全体のエピジェネティック修飾塩基測定法の開発
3.ヒトゲノムDNA中で形成される四重鎖構造の網羅的同定
4.四重鎖構造の機能解析
[研究室ホームページ]
URL: https://yoshida-lab.bs.teu.ac.jp/
(注1) ヒドロキシメチル化: メチルシトシン酸化酵素により、メチルシトシンが酸化されてヒドロキシメチルシトシンが生成する反応
(注2) (1) Anal. Chem. (2016) 88, 9264; (2) Anal. Chim. Acta (2017) 990, 168; (3) Anal. Lett. (2019) 52, 754; (4) Anal. Bioanal. Chem. (2019) 411, 4765
(注3) 論文名「Quantification of global DNA hydroxymethylation level using UHRF2 SRA-luciferase based on bioluminescence resonance energy transfer」 (URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.1c05619 )
(注4) CpG: シトシンとグアニンの連続した塩基配列で構成されるDNA
(注5) UHRF2 (Ubiquitin like with PHD and ring finger domains 2)のSRA(SET- and RING-associated) domain: ヒドロキシメチル化CpGに結合するタンパク質ドメイン
(注6) ルシフェラーゼ:発光反応を触媒するタンパク質
(注7) MBD (Methyl-CpG-binding domain): メチル化CpGに結合するタンパク質ドメイン
(注8) インターカレーター: DNAに結合する蛍光色素
【研究支援】
本研究は、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団からの助成を受けたものです。
■東京工科大学応用生物学部 吉田亘(エピジェネティック工学)研究室
ゲノムDNAやRNA中の修飾(エピジェネィック修飾)や四重鎖構造などの核酸の特殊高次構造に着目し、それらの生体機能の解析や新規検出方法の開発を行っている。
[主な研究テーマ]
1.疾患関連遺伝子のエピジェネィック修飾塩基測定法の開発
2.人工発光タンパク質を利用したゲノムDNA全体のエピジェネティック修飾塩基測定法の開発
3.ヒトゲノムDNA中で形成される四重鎖構造の網羅的同定
4.四重鎖構造の機能解析
[研究室ホームページ]
URL: https://yoshida-lab.bs.teu.ac.jp/
応用生物学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html
https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html
■本件に関する問い合わせ
東京工科大学 応用生物学部
准教授 吉田亘
TEL: 042-637-4517(研究室直通)
TEL: 042-637-4517(研究室直通)
E-mail: yoshidawtr(at)stf.teu.ac.jp
※(at)は@に置き換えてください。
大学・学校情報 |
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大学・学校名 東京工科大学 |
URL https://www.teu.ac.jp/ |
住所 東京都八王子市片倉町1404-1 |
学長(学校長) 香川豊 |