日本大学

【日本大学】不規則な生活により太るメカニズムを解明しました ~「体内時計の乱れによる肥満形成の分子メカニズムを解明」~

大学ニュース  /  先端研究

  • ★Twitter
  • ★Google+
  • ★Hatena::Bookmark

日本大学薬学部の榛葉繁紀教授を中心とする研究グループは、夜型生活やシフトワークなどの不規則な生活が肥満を誘導するメカニズムを解明しました。マウスを使った実験で、体内時計システムの機能低下により、インスリンの感受性を強めるホルモン(FGF21)量が増加し、その結果、脂肪細胞の肥大化が起こることを突き止めました。研究成果は、今まで疫学的、そして経験的に知られていた不規則な生活と肥満との関係を分子レベルで明らかにしたものであり、「規則正しい生活の励行」に科学的エビデンスを与えるものです。以上の研究内容は、ネイチャー誌の姉妹誌である「npj Biological Timing and Sleep」に掲載されました。

【研究の背景】
 肥満及びその関連疾患を呈する原因は多種多様であり、脂肪性⾷品からのエネルギー過剰摂取、交通⼿段の発達による運動不⾜、過度のストレスなどが挙げられています。興味深いことに夜型⽣活やシフトワークなどの不規則な⽣活と肥満関連疾患(特に虚⾎性⼼疾患)との関係が⽰されています。体内においてエネルギーの消費をはじめとほとんどの⽣理機能は1⽇を通じて⼀定ではなく、⽇内変動を⽰します。そして、この⽇内変動は体内時計によってコントロールされています。不規則な⽣活はこの体内時計を乱し、その結果、肥満及び関連疾患発症を誘発すると予想されますが、その実態は全く不明でした。
 そこで我々は、脂肪細胞(体の中の"脂肪"と呼ばれる部分の組織を構成する主な細胞)の中で体内時計が働かなくなったマウスを作製して、体内時計の機能低下が肥満を誘発しているのか︖そして誘発するとすれば、どのようなメカニズムなのかを解析しました。

【主な結果】
 以下の説明⽂・図の中でAAKO マウスとは脂肪組織特異的に体内時計機能が低下しているマウスです。 Arntlflox/floxマウスはコントロールマウスであり、体内時計の機能は正常です。グラフ中の*は統計的に有意に異なることを意味しています。

1. 体内時計の機能低下により脂肪細胞の肥⼤化が起こる
 下の図(図1)は正常マウス(Arntlflox/flox)と脂肪細胞において、体内時計機能が低下しているマウス(AAKO)の脂肪細胞の写真です。AAKOマウスの脂肪細胞が肥⼤化していることがわかります。

2. 体内時計の機能低下により脂肪細胞におけるインスリンの感受性が増加する
 脂肪細胞は、膵臓から分泌されるインスリンの働きにより⾎液からグルコースを取り込み、細胞内で脂肪に変換(代謝)して蓄積します。すなわち、インスリン量やインスリンの効き⽅が良いとより脂肪を溜めこみ、細胞が肥⼤化します。予備的検討によりAAKO マウスとArntlflox/flox マウスの間でインスリン量に違いがないことを確認しています。そこでインスリン感受性(効き⽅の強度)を解析しました。
下図(図2左)
 インスリンを投与してからの⾎糖値の変化を時間ごとに追ったものです。インスリンを投与することで⾎糖値は下がっていきます。AAKOマウスの⾎糖値は、Arntlflox/floxマウスよりも速く⾎糖値が低下していきます。またArntlflox/floxマウスでは、投与120分後には⾎糖値は回復し始めていますが、AAKOマウスではそのような上昇は⾒られません。この結果は、AAKOマウスの⽅が、インスリン感受性が⾼い(インスリンの効きが良い)ことを⽰しています。
下図(図2右)
 インスリンあるいはインスリンを溶かすための溶媒(PBS)を投与したマウスの脂肪組織における2-デオキシグルコース(2-DG)の取り込み量です。インスリンの投与により両⽅のマウスともに2-DGの取り込み量は増加しましたが、その程度はAAKOマウスの⽅が約2倍⾼い値を⽰しました。これは左図と同様にAAKOマウスの⽅が、インスリン感受性が⾼いことを⽰しています。

3. 体内時計の機能低下により肥満関連ホルモンFGF21(エフジーエフ21)量が脂肪細胞で増加する
 2において、脂肪細胞で体内時計の機能低下が起こることでインスリン感受性が⾼まることがわかりました。そこでインスリン感受性に関わるホルモン類を解析したところ、AAKOマウスの脂肪組織において、FGF21量が増加していることが明らかになりました(図3)。FGF21が細胞に作⽤すると、cFosやEgr1といった遺伝⼦の発現量が増加することが知られています。AAKOマウスの脂肪組織でもこれらの遺伝⼦発現量は増加しています(図3)。すなわちAAKOマウスでは、FGF21の量も活性も増加していることが⽰されました。

4. 脂肪細胞においてFGF21を消失させると体内時計が機能低下していても細胞の肥⼤化やインスリン感受性の増加は起こらない
 FGF21はインスリン感受性を⾼める作⽤を持つホルモンです。そこで以下の実験では、AAKOマウスの脂肪細胞においてFGF21遺伝⼦を⽋損させ、本当にFGF21がAAKOマウスにおけるインスリン感受性増⼤その影響を解析しました。AdKOマウス(脂肪細胞のFGF21遺伝⼦を⽋損したAAKO(体内時計機能低下)マウス)の脂肪細胞の⼤きさ(図4左)、インスリン感受性(図4中)、脂肪組織への2-DGの取り込み量(図4右)は、コントロールマウス(Arntlflox/floxFgf21flox/floxマウス)と同程度でした。すなわち、脂肪組織の体内時計が機能低下していても、FGF21が存在しなければインスリン感受性の亢進による脂肪細胞の肥⼤化が起こらないことが⽰されました。これは、FGF21が体内時計の機能低下に伴う肥満発症の原因であることを⽰しています。

5. 脂肪細胞におけるFGF21量は体内時計によって制御されている
 最後に体内時計機能の低下がどのようにして脂肪細胞中のFGF21量を制御しているのかを解析しました。
 その結果、体内時計機能が正常に働いていると、Fgf21遺伝⼦の転写調節領域(DNA上にあるFgf21の転写を調節する領域)に転写抑制因⼦が結合しており、Fgf21の発現(mRNA量)を少なくしています。ところが体内時計機能が低下するとこの抑制因⼦が外れて、Fgf21の転写が活性化され、量が増加します。
 図5はFgf21遺伝⼦の転写調節領域に結合している転写抑制因⼦の量を⽰しています。

【結論】
 本研究では、体内時計の機能が低下することにより以下の現象が起こることを⽰しました。また概略を図6において⽰しました。
① 脂肪細胞が肥⼤化すること。
② 脂肪細胞の肥⼤化は、細胞のインスリン感受性(効き⽅)が⾼まるためであること。
③ インスリン感受性が⾼まるのは、脂肪細胞からインスリン感受性を⾼めるホルモンであるFGF21が多く作られるためであること。
④ FGF21量は、体内時計によってコントロールされていること。
 以上の結果は、疫学的、そして経験的に知られていた不規則な⽣活と肥満との関係を分⼦レベルで明らかにしたものであり、「規則正しい⽣活の励⾏」に科学的エビデンスを与えるものです。

⽤語解説
・体内時計︓体内時計とは、我々の⾝体の⽣理反応が1⽇約24時間のリズムを刻む仕組みを指す。体内時計の調節は、体中の全細胞に存在する時計遺伝⼦によって制御されている。このメカニズムは、⽣物が外部環境に適応するために進化の過程で獲得した能⼒であり、健康的な⽣活を送るために⽋かせないものである。
・脂肪細胞︓内臓脂肪組織や⽪下脂肪組織を構成する主な細胞。体内の過剰なエネルギー(糖質や脂質)を取り込みトリグリセリド(中性脂肪)として蓄える。体が太るというのは脂肪細胞が肥⼤化している状態を指す。
・インスリン︓膵臓から分泌されるホルモンであり、⾎糖値を下げる作⽤や脂肪を太らせる(同化させる)作⽤を持つ。
・FGF21︓Fibroblast growth factor 21の略。主に肝臓や脂肪細胞で産⽣・分泌される。インスリンの感受性を⾼める作⽤を持つ。

論⽂情報
・雑誌名︓ npj Biological Timing and Sleep (ネイチャー誌の姉妹誌になります)
・論⽂名︓ Deletion of Arntl, a component of the molecular clock, in adipocytes leads to cellular hypertrophy by increasing insulin sensitivity via FGF21
・著者︓ Hirotake Ishii, Satoshi Kitaura, Taira Wada, and Shigeki Shimba
・掲載⽇︓ 2025年2⽉3⽇(現地時間)
・掲載URL︓ https://www.nature.com/articles/s44323-025-00023-7
・DOI︓ 10.1038/s44323-025-00023-7

本研究にコメントをいただける⽅々
・⼟居雅夫 教授(京都⼤学⼤学院薬学研究科 doimasao@pharm.kyoto-u.ac.jp )
・上⽥泰⼰ 教授(東京⼤学⼤学院医学系研究科 uedah-tky@umin.ac.jp )
・吉種 光 体内時計プロジェクトリーダー(東京都医学総合研究所 yoshitane-hk@igakuken.or.jp )

⽇本⼤学薬学部健康衛⽣学研究室について
 本研究室では、体内時計と肥満との関係を時計遺伝⼦BMAL1の機能の観点から幅広く研究しています。本成果以外にも⽶国アカデミー紀要(PNAS)に論⽂が採択されるなど、さまざまな成果を出しています。
 これらの先⾏研究の成果は、以前、報道機関様において紹介されています。
 朝⽇新聞、読売新聞、毎⽇新聞、⽇本経済新聞 ほか
 NHK 「あさイチ」、「サイエンスZERO」
 ⽇本テレビ 「世界⼀受けたい授業」
 TBS 「はなまるマーケット」
 テレビ朝⽇ 「モーニングバード」
 テレビ東京 「L4YOU」 ほか多数

お問い合わせ先
⽇本⼤学薬学部
〔担当者〕榛葉 繁紀(しんば しげき)
〔TEL〕047-465-1667(受付)
〔FAX〕047-465-2406
〔E-mail〕shimba.shigeki@nihon-u.ac.jp

図1.png 画像1

図2.png 画像2

図3.png 画像3

図4.png 画像4

図5.png 画像5

図6.png 画像6