神戸女学院大学

神戸女学院大学の高木俊人専任講師らによる研究グループが近畿地方のニホンジカとオオセンチコガネの集団動態比較に基づく仮説を提唱 ― 奈良公園の宝石はシカ集団の孤立・断片化によって生まれた!?

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<本研究のポイント>
●歴史的な集団構造の比較から、紀伊半島のニホンジカだけでなく、近畿地方のオオセンチコガネ集団の断片化も人間活動によって形成された可能性が高い。
●紀伊半島のニホンジカは、過去2000年の間に奈良公園、半島東部、半島西部の3つの遺伝的集団に分かれた。
●近畿地方のオオセンチコガネも湖南地方の祖先集団が約2000年前に分岐し、その後、さらなる分岐により湖南地域の3種類の色彩多型集団(赤、緑、瑠璃)が生まれてきた。
●オオセンチコガネにおける色彩多型が、1万年を超えるような地史的な時間スケールではなく、過去2000年の人間活動を契機に発生、固定したと考えられる。

  奈良公園の宝石とも称され、ルリセンチコガネとも呼ばれる瑠璃色のオオセンチコガネは、どのように生まれてきたのか?これは多くの研究者や昆虫愛好家の長年の疑問であった。
 近年の研究により、近畿地方の赤、緑、瑠璃の3色のオオセンチコガネの歴史は2000年より短く、意外に最近であることが明らかにされている。そこで神戸女学院大学の高木俊人専任講師、北海道大学の荒木祥文研究員(論文執筆時は京都大学特定研究員)、福島大学の兼子伸吾教授からなる研究グループは、オオセンチコガネとニホンジカ集団の歴史的な変遷について遺伝解析をもとに比較した。
 その結果、シカの集団が人間活動によって孤立・断片化したのと同じ時期に、オオセンチコガネの色彩多型を持つ集団も分岐していた。
 つまり、1) 歴史的な人間活動がシカを含む哺乳類の分布に影響を及ぼし、哺乳類の糞を食べるオオセンチコガネ集団の分岐にも影響したと考えられる。2) また、色彩多型を有する集団の分岐が約600年前と比較的最近であることから、奈良時代の平城京に生息していたオオセンチコガネは瑠璃色をしていなかった可能性もある。

 このたび、同研究の成果が国際環境研究協会発行の学術誌『地球環境』に発表された。

※研究の内容や成果の意義などについては添付PDFを参照。

◎掲載論文情報
【タイトル】
 近畿地方のニホンジカとオオセンチコガネの遺伝構造から読み解く人間活動の歴史的な影響
【著 者】 高木俊人、荒木祥文、兼子伸吾
【著者の所属】
・高木俊人(神戸女学院大学 生命環境学部 専任講師)
・荒木祥文(京都大学 農学研究科、現所属:北海道大学および日本学術振興会 特別研究員)
・兼子伸吾(福島大学 共生システム理工学類 教授)
【掲載誌】 地球環境(国際環境研究協会が発行している和文学術会誌)
【公開日】 2024年5月上旬 WEB公開予定
【リポジトリ】 https://hdl.handle.net/10270/6950

◎著者のコメント
 紀伊半島のニホンジカ、および近畿地方のオオセンチコガネに関する以上の研究は独立して実施されたにも関わらず、同様の推定結果をもたらしたことは非常に興味深く感じています。また、ニホンジカの論文(Takagi et al. 2023)とオオセンチコガネの論文(Araki & Sota 2023)の出版がほぼ同時であったことに運命のようなものを感じています。
(神戸女学院大学 高木俊人)

 シカとオオセンチ、2つの研究が出会ったことにより、生物間の相互作用に対する理解がまた一段と深められたように思います。また、共生・寄生関係にある生物間では地理的な分布などが似通うという研究は多数ありますが、集団分化の時期の近似性にまで踏み込んだ研究は非常に稀であり、その点でも意義深い成果であると感じています。
(北海道大学 荒木祥文)

 奈良のシカの論文の発表直前に発表されたオオセンチコガネの論文を読んだときの衝撃はいまでも忘れていません。これまで個別に論じられていたオオセンチとシカの論文の知見を統合し、その深い関係について言及できたこと、また異なる色のオオセンチが人間活動によって生まれた可能性を示すことができ、とても嬉しく思います。
(福島大学 兼子伸吾)

▼研究に関する問い合わせ先
・神戸女学院大学 生命環境学部
 専任講師 高木俊人
 E-mail: takagi@mail.kobe-c.ac.jp

・福島大学 共生システム理工学類
 教授 兼子伸吾
 E-mail: skane@sss.fukushima-u.ac.jp

▼広報に関する問い合わせ先
・神戸女学院大学 入学センター・広報室
 TEL: 0798-51-8585
 E-mail: koho@mail.kobe-c.ac.jp

・福島大学 総務課 広報・渉外室
 TEL: 024-548-5190
 E-mail: kouho@adb.fukushima-u.ac.jp

画像1.jpg 図1. ニホンジカと近畿地方のオオセンチコガネの集団の分岐年代。年代の推定値は,ニホンジカ(Takagi et al. 2023)、オオセンチコガネ(Araki and Sota 2023)の中央値に基づく。(作成:高木俊人)

0516koube2.jpg 図2. 近畿地方におけるオオセンチコガネの地域集団の分布。3つの遺伝的系統(湖西系統,湖東系統,湖南系統)と3つの色彩型(赤色型,緑色型,瑠璃色型)の組み合わせにより、5つの地域集団に大別される。(撮影:荒木祥文)