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人間関係を選びやすい都市ほど、住民は外向的に ― 法政大学の研究グループが、全国47都道府県庁所在地のデータから「関係流動性と性格特性の関連」を解明 ―

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法政大学経済学部の伊藤健彦准教授と玉川大学脳科学研究所の高岸治人教授の研究グループは、全国47都道府県庁所在地に住む20〜30代の男女5,048人を対象に、「人間関係の選びやすさ(関係流動性)」と「性格(外向性・協調性など5つの性格特性=ビッグファイブ)」の関係を多層的な統計解析によって検証しました。その結果、人間関係を新しく作ったり、合わない関係から離れたりしやすい環境ほど、そこに住む人々の外向性が高いことが分かりました。この傾向は、人口規模や人口密度、転入・転出者数といった都市の特徴を統計的に調整しても、その関連性は維持されました。本研究は、「人間関係の選びやすさ」という社会環境の違いが、性格の地域差と関係している可能性を示した、日本国内では初の大規模研究です。研究成果は、2025年11月27日に性格心理学の国際学術誌「Journal of Personality」にオープンアクセス論文として公開されました。

◆発表のポイント
・全国47都道府県の主要都市を対象に、関係流動性とビッグファイブ性格特性の関連を多層モデルで分析した国内初の研究。
・関係流動性が高い個人および地域ほど「外向性」が高いことを統計的に確認した。
・人口規模、人口密度、人口移動などの地域マクロ要因を調整しても関連が確認され、社会環境が性格傾向と結びつくことが示唆された。

◆背景
 これまで、欧米のように引っ越しや転職で人がよく移動する社会では人間関係を自由に選びやすい一方で、日本のように一度できた人間関係が長く続きやすい社会では人間関係の選択に制限があると指摘されてきました。この「人間関係の選びやすさ」を表す概念は関係流動性(Relational Mobility)と言われ、関係流動性と心理・行動の関連が国内外で多く行われてきました。しかし、関係流動性と性格特性との関連を個人レベルと都市レベルの両方から同時に分析した研究は国内でほとんどありませんでした。さらに、人口規模、人口密度、人口移動などの地域マクロ要因を同時に検証した研究もありませんでした。

◆研究内容・成果
(1)調査の方法
・対  象:全国47都道府県の各都道府県庁所在地に住む20〜30代の男女計5,048人
・実施方法:ウェブ調査会社を通じたオンライン調査
・測定内容:関係流動性、ビッグファイブ性格特性、各都市の総人口、人口変動率、人口密度、転入者数・転出者数
・分析方法:個人(レベル1)と地域(レベル2)を同時に解析するマルチレベル分析(個人と地域の両方の特徴を同時に扱える統計解析手法)

(2)主な結果
 調査結果をもとに47都道府県庁所在地の関係流動性の程度をマッピングした地図を図1に示します。
 マルチレベル分析の結果、「人間関係を選びやすい」と平均的に感じている都市ほど、そこで暮らす人々の外向性の平均が高いことが分かりました。この関連性は、関係流動性と関連がある都市の総人口、人口変動率、人口密度、転入者数・転出者数といった指標をモデルに入れても維持されました。これは、単に「大都市だから外向的な人が集まっている」というより、「人間関係を選びやすい」社会環境そのものが、そこで暮らす人々の性格傾向と結びついている可能性を示しています。
 なお、本研究は相関関係(結びつき)を示すものであり、「関係流動性が高いから外向的になった」「外向的だから関係流動性が高い都市を選んだ」など、因果の方向までは断定していません。また、他の性格特性である協調性・誠実性・神経症的傾向・開放性については関係流動性との都市レベルの関連が見られませんでした。

◆今後の展望
 今回の結果から、人間関係の「選びやすさ」といった社会環境の違いが、人々の性格傾向と関連している可能性が示されました。今後は、日本以外の国・地域との比較、年代を広げた調査(高校生・高齢者など)、時間を追って変化を見る追跡調査を通じて、「環境によって性格が変化するのか」「人が性格に合った環境を選んでいるのか」といった因果関係の解明を目指します。

【論文情報】
・掲載誌: Journal of Personality(性格心理学の国際学術誌)
・論文タイトル: Associations Between Individual- and Group-Level Relational Mobility and Big Five Personality in Japan: A Multilevel Study of Prefectural Capitals
・著者: Takehiko Ito(Hosei University), Haruto Takagishi(Tamagawa University)
・掲載日: 2025年11月27日
・DOI: 10.1111/jopy.70033
・URL: https://doi.org/10.1111/jopy.70033
・形態: オープンアクセス論文(どなたでもオンラインで閲覧可能です)

【発表者・研究者等情報】
 伊藤健彦(法政大学経済学部 准教授)
 高岸治人(玉川大学脳科学研究所 教授)

▼本件に関するお問い合わせ先
【研究内容に関するお問い合わせ先】
 法政大学経済学部 准教授 伊藤健彦
 E-mail:itotakehiko@hosei.ac.jp

【取材に関するお問い合わせ先】
 法政大学総長室広報課
 TEL:03-3264-9240
 E-Mail:pr@adm.hosei.ac.jp

1210法政大学図1.jpg 図1 関係流動性の程度をマッピングした地図:地域の色が濃ければ濃いほど関係流動性の程度が高いことを表す