北里大学

北里大学が、誤差5%以内で金属の実効原子番号を測定するX線イメージング法を開発――透過X線の位相検出にX線干渉計を用いて高感度化

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学校法人北里研究所(理事長:藤井 清孝/以下、北里大学)はこのたび、株式会社日立製作所(執行役社長:中西 宏明/以下、日立)、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 : 鈴木 厚人/以下、KEK)と共同で、金属膜を透過するX線(放射光)の吸収量とともに位相の変化をX線干渉計によって測定し、金属の実効原子番号(*1)を観察するX線イメージング法を開発した。この方式で、アルミ、銅、鉄、亜鉛の単一元素からなる材料を観察したところ、誤差5%以内で元素を特定できることを実証した。この計測技術は、大気中で数十ミリメートル領域を数十ミクロンの空間分解能で一括に観察できることから、磁石新素材やインフラ構造部材における元素分布の新たな評価技術として期待される。

 X線が物質を透過する際に密度の高い領域ほど吸収されることを利用して、レントゲンのように被写体内部の密度分布を画像化する技術が実用化されている。また、近年では被写体の密度変化をさらに高い感度で知る方法として、被写体を透過するX線の位相の変化を調べるX線位相イメージング法が研究されている。位相とは、X線を波としてみた場合の、その波における山や谷の位置のことで、透過するX線の吸収による強度の変化に比べて1000倍以上敏感に変化するために、吸収の小さい生体組織や有機材料の観察手段として注目されている。しかし、感度が高いとは言え、この方法で観察できるのは物質の密度であり、原子の種類を知ることはできない。
 しかし、2010年にX線の位相と吸収の変化を同時に測定することで得られる両者の比により、測定部分の平均的な原子番号(実効原子番号)が特定可能であるという論文が発表された。この技術の適用範囲を金属まで拡大できれば、大気中で広い領域(KEKの放射光施設フォトンファクトリーBL-14Cで数十ミリメートル角)を数十ミクロンの分解能で計測できるため、磁石材料やインフラ構造部材などを一括で観察することが可能となる。
 このような観点から今回、日立、KEKおよび北里大学は共同で、金属の観察まで適用できる高いエネルギーの放射光を用いたX線イメージング法を開発し、誤差5%以内の精度で実効原子番号を計測できることを実証した。開発技術の内容は以下の通り。

(1)X線干渉計による高感度化
 金属を透過する数十キロエレクトロンボルト(keV)の大きなエネルギー領域で高い精度の実効原子番号を観察するためには、高感度に位相の変化を検出することが必要である。今回、日立が独自に開発を進めているX線干渉法(単結晶から製作されたマッハツェンダー型のX線干渉計(*2)を用いて、位相の変化を波の重ね合わせにより直接的に検出する方式)を採用することで他の位相検出法に比べて10倍程度の検出感度を実現した。さらにこの方式では、光学素子や検出器の位置を変更し再調整する必要がなく、X線干渉計内での参照波の光路を遮蔽板で開閉するのみで吸収と位相の両像を取得可能であるため観察時間の短縮化が図られる。

(2)実効原子番号の測定精度を検証
 軽元素から金属までの元素を対象とした測定が可能なエネルギー17.8 keV(波長0.7オングストローム)の放射光を用いて、アルミ、銅、鉄、亜鉛の単一元素からなる箔の吸収ならびに位相コントラスト像(*3)を測定した。この結果から実効原子番号を算出したところ、各金属について誤差5%以内で原子番号に一致した値を得ることができた。

 開発した技術で錆びた鉄を測定したところ、酸化により錆が進行している部分では実効原子番号が小さくなっていることを検証した。これは、酸化により元素番号の小さい酸素(元素番号8)の割合が、鉄(元素番号26)に比べて増加したことによるものであり、この検証により同イメージング法では酸化など元素組成の変化も簡便に可視化できることが確認できた。

 開発した技術は、大きなエネルギー領域での放射光の特長を利用し、大気中で数十ミリメートルの広い範囲を測定できること、また数十ミクロンの空間分解能で、被写体となる材料の実効原子番号を特定できることから、新たな磁石新素材やインフラ構造部材の観察技術として期待される。

 なお、この成果は、2014年1月11日から広島国際会議場(広島県)で開催される「第27回日本放射光学会年会」で発表する予定。

※観察例は添付ファイルを参照。

*1 実効原子番号:化合物や混合物の構成元素を平均的に見たときに相当する原子番号。

*2 マッハツェンダー型干渉計:光を2つの光路に分離し、試料などを透過させた後、再び重ね合わせて干渉させる干渉計。高感度に定量的な位相シフトを検出することができる。

*3 位相コントラスト像:X線は波長の短い電磁波であるが、被写体を透過するときに振幅の減少と同時に位相のずれ(シフト)を生じる。このずれの大きさをコントラストに変えて画像化したものが位相像で、X線の吸収量が小さく吸収像を得るのが困難な軽元素からなる生体軟部組織や有機材料の可視化も可能である。

▼本件に関する一般の方の問い合わせ先
 株式会社日立製作所 中央研究所 情報企画部 [担当:木下、石川]
 〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪1丁目280番地
 TEL: 042-323-1111 (代表)

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▼本件に関する報道関係の方の問い合わせ先
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 学校法人北里研究所 法人本部 総務部 広報課 [担当:山出]
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