龍谷大学

龍谷大学が長期保管の必要な古文書など文化財資料の状態悪化を防ぐ新しい保管方法を開発

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龍谷大学理工学部情報メディア学科の岡田至弘(おかだ・よしひろ)教授の研究グループはこのたび、東洋紡株式会社の協力のもと、長期保管を必要とする重要な文書や古文書など、研究資料の保護・保存のため、フィルムを用いた新しい保存方法を開発した。

 龍谷大学理工学部情報メディア学科 岡田至弘(おかだ・よしひろ)教授の研究グループが、東洋紡株式会社の協力のもと、長期保管を必要とする重要な文書や古文書など、研究資料の保護・保存のため、フィルムを用いた新しい保存方法を開発した。

1.技術内容
 今回開発した古文書などの研究資料の保護保存のための新しい文書保管方法は、PETフィルムを応用した方法で、文書等の長期保管による状態悪化の防止を可能としている(写真1参照)。例えば、このフィルムを少なくとも一方に使用し、もう一方は任意の部材を支持体として用いて、それらの間に貴重な記録物を挟み、保護することにより記録物の保存が可能となる。
 保管が必要な重要文書や古文書などの貴重な研究資料、文化財などの記録物は、主に紙や木材などによるもので、通常のまま保管すると光(紫外線)や水分などによる劣化や、小動物、虫、細菌などの生物によって破壊されるなど状態悪化の進行が懸念される。このような劣化や破壊から貴重な文書を保護するためにはさまざまな工夫が必要となる。
 現在多く用いられる方法として、古文書を2枚のガラスやガラスとプラスチックフィルムとの間に挟んで保護する方法があるが、この方法にはいくつかの問題がある。古文書等を挟むガラスは、非常に硬く、傷みがひどく極度に脆弱化したものを封印して保護するのには都合が良いのが、ガラスの重さや破損により資料を傷める可能性があるため、取り扱いや保管に特別な注意が必要となる。さらに、ガラスの成分が塩の結晶として析出し、保存している資料に悪影響を与えるという報告もある(写真2参照)。
 この問題を解決するために、当研究グループでは、2枚のプラスチックフィルムで封じる方法を考案し、開発を進め、実現することができた(写真3参照)。
 この方法は、紫外線による劣化を防ぐことができるとともに、水分による劣化、あるいは小動物、虫、細菌など生物による破壊から重要な資料を守ることができる。さらに、軽量および小容積という特徴があるので、古文書などの研究においては、記録物を保護フィルムに把持したままで、赤外線吸光分析や光学的顕微鏡での目視観察も可能となる。

2.龍谷大学における本方法の活用(古文書等資料の保存と研究) 
 現在、龍谷大学では、これまで展観することが困難であった古文書そのものの図像(IDPデータベース)をWeb上での閲覧サービスとして研究者に公開しているが、それらをさらに発展させて、所蔵側としてより詳細な学術データの提供を検討している。つまり、高精細画像データのみならず、各種科学調査データの公開を計画している。
 その過程において、現物そのものの保存と、古文書そのものを対象とした今後の新たな研究展開をめざすことになるが、目視観察と科学分析を可能とし、かつ保存・閲覧性を持つ本方法を利活用していく。

(1)IDP(International Dunhuang Project)データベース:
 20世紀初頭、大谷光瑞師によって3度にわたり実施された探検隊の仏跡調査は、中央アジアの多くの仏教経典・文化・社会・美術資料を将来した。現在、これらの将来品は、龍谷大学、東京国立博物館、京都国立博物館、韓国国立中央博物館、中国旅順博物館、北京図書館などに収蔵されている。龍谷大学においては、仏教経典および断片資料などの資料のデジタル化と電子公開をおこなっている。
電子公開により、資料公開を進める取組は、同様のコレクションを有する各国研究機関・博物館・図書館でそれぞれの方法での分類と独自のデジタル化とWeb公開が進められていたが、共通の分類項目と、共通の閲覧方法によるサービスが求められていた。各国機関の協力のもと、1994年に国際敦煌プロジェクト(IDP)が設立され、IDPセンターが、イギリス、中国、ロシア、日本、ドイツ、韓国、スウエーデンに設置されている。IDP日本は2004年に龍谷大学に設立された。龍谷大学図書館は大谷探検隊資料として約8,000点の関連資料を保管しており、古典籍デジタルアーカイブ研究センターが中心となって各国IDPとの連携と資料のデジタル化をおこなっている。20世紀初頭の探検家や考古学者達によって発見されたシルクロード遺物の多くが世界中に分散している、Web上での資料の閲覧が可能となっている。

(2)科学分析:
 文書の科学的な分析は、透過光および斜光での写真撮影、高解像度スキャナーによるスキャンデータの取得、色の測定、デジタル顕微鏡による観察、蛍光X線分析装置による元素分析などの非破壊分析がある。これらの計測結果から文書の分類が可能になる。たとえば、本調査では、基本項目として紙幅、紙高、紙厚、重さ、面積を原材料に依存する項目として繊維幅の分布、紙色、含有元素の分析などをおこなっている。

▼本件に関する問い合わせ先
 龍谷エクステンションセンター 水野・筒井
 TEL: 077-543-7805
 Mail: rec@ad.ryukoku.ac.jp

4983 (写真1)保管に使用するフィルム

4984 (写真2)保管された資料の周りにガラス成分の樹状結晶が析出している様子 (IDP NEWS, No.29, Spring 2007, ISSN 1354-5914)

4985 (写真3)本方法を使用して研究用の資料を保護した例

4986 (写真4)2枚のガラスに挟んで保護、保存されている古文書の破片(木製)

4987 (写真5)中性紙に挟んで保護、保存されている古文書