【杏林大学】「抗酸化サプリは摂取量が多いほど効果的」は間違いだった可能性 -抗酸化物質ビタミンEに“適量”が存在することを初めて実証-
研究ハイライト
- 中等量のビタミンE摂取群のみが、高負荷運動による炎症反応を抑制しつつ、運動適応の指標であるPGC-1α発現を促進した。
- 高用量のビタミンE摂取群の酸化ストレスは低減した一方で、炎症反応はむしろ増加し、PGC-1αの発現は促進されなかった。
- 抗酸化サプリメントに「ホルミシス(適量効果)」が存在することを示した初の研究成果。
研究の背景:「身体にいい」の思い込みが、運動効果を台無しにしていた可能性
生活習慣病の予防において、運動が最も有効な手段のひとつであることは広く知られています。しかし、運動によって一時的に増加する活性酸素(ROS)は、ミトコンドリア機能の改善や抗酸化酵素の発現といった健康効果を引き起こす「シグナル」である一方、過剰になると炎症や組織損傷を招く“両刃の剣”でもあります。
この矛盾を解消するために、アスリートや健康意識の高い一般消費者の間で抗酸化サプリメントの利用が広がっています。しかし近年、抗酸化サプリの過剰摂取がかえって運動の生理的適応を阻害するという報告があり、サプリ摂取の是非について議論が長年続いていました。
この議論の背景には従来の研究が「1種類の摂取量 × 1種類の運動負荷」という単一条件での検証にとどまっていましたことが挙げられます。そこで本研究では、複数の運動負荷と複数の抗酸化摂取量を組み合わせて系統的に比較しました。
研究の概要
Wistar系雄性ラットを、対照群と運動群に分け、運動群はさらにビタミンE摂取量によって「通常量(70 mg/kg)」「中容量(350 mg/kg)」「高容量(700 mg/kg)」の3群に分類。
低負荷運動(週90分×4週間)と高負荷運動(週300分×4週間)の2段階で有酸素運動を実施し、酸化ストレス指標(d-ROMs)、抗酸化能力(BAP)、炎症マーカー(hs-CRP)、運動適応を示す転写因子(PGC-1α)の発現を測定しました。
主な結果
| 指標 | ビタミンE 通常量 | ビタミンE 中容量 | ビタミンE 高容量 |
| 酸化ストレス(d-ROMs) | 対照群比 +20%↑ | 対照群比 +19%↑ | 対照群と有意差なし |
| 炎症反応(hs-CRP) | 増加(+6%) | 増加なし ★ | 増加(+8%) |
| 運動適応(PGC-1α) | 変化なし | 有意に増加 ★ | 変化なし |
※★は中容量のビタミンE摂取群のみに見られた結果。PGC-1αは運動による健康効果(ミトコンドリア機能改善、抗炎症作用)の鍵を握る転写因子。
研究の意義:「多ければ多いほど効く」を科学的に否定
本研究の最大の発見は、運動時における抗酸化サプリメントの効果は摂取の有無やその量に依存するのではなく、「ホルミシス(適量効果)」に従うという新たなパラダイムを提示した点にあります。
サプリメント市場が拡大する中「なんでもかんでも多めに摂っておけば安心」という消費者のイメージに対し、科学的な根拠に基づいた用量設計の重要性を示しました。
本成果は、アスリートの栄養戦略、生活習慣病予防における運動療法の最適化、そしてサプリメント製品の設計指針に新たな知見を提供します。

鈴木里奈 氏(現 if株式会社代表取締役)の コメント
「身体にいいものは、たくさん摂るほどいいことばかり」多くの方がそう信じています。
しかし少なくとも運動中のビタミンEにおいては、多ければ多いほどいい、という定義は崩されました。
同時に運動性誘発性の酸化ストレスに関しても、悪者のイメージがついていますが、生理的範囲内であれば私たちの体に有益な働きかけをしてくれることも示されたデータだと言えます。
つまり、この研究が示したのは、サプリメントは正しい知識と適切な量があってこそ価値を持つという事実です。本研究成果を基盤に、人を対象とした追加研究への推進・発展を目指していきます。
掲載論文情報
論文タイトル:Effects of Different Doses of Antioxidant Intake on Exercise-Induced Oxidative Stress, Antioxidative Capacity and Inflammatory Responses
掲載誌:Journal of Science in Sport and Exercise
著者:Rina Suzuki, Akiko Yamaki, Hiroyasu Murata, Kazukuni Hirabuki, Noritaka Hata, Ai Hirasawa, Ken Muramatsu, Takeaki Matsuda, Shigeki Shibata
DOI:https://doi.org/10.1007/s42978-025-00368-2
受理日:2025年12月9日 公開日:2026年2月9日
本件に関するお問い合わせ先
【研究内容に関するお問い合わせ】
杏林大学 柴田茂貴 E-mail:shigekishibata@ks.kyorin-u.ac.jp
【報道・取材に関するお問い合わせ】
鈴木里奈(現 if株式会社代表取締役社長) E-mail: info@if-rinasuzuki.com