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【麻布大学】ネコの多発性嚢胞腎に関わる遺伝子変異、減少傾向を確認~ペット保険データ・遺伝子検査データを解析~

【麻布大学】ネコの多発性嚢胞腎に関わる遺伝子変異、減少傾向を確認~ペット保険データ・遺伝子検査データを解析~
麻布大学は、アニコム パフェ株式会社(代表取締役社長 古賀 昭一朗、以下 アニコム パフェ)、アニコム先進医療研究所株式会社(代表取締役社長 堀江 亮、以下 アニコム先進医療研究所)およびアニコム損害保険株式会社(代表取締役 野田 真吾、以下 アニコム損保)との共同研究を通じて、ネコの代表的な遺伝性腎疾患である多発性嚢胞腎(Polycystic Kidney Disease:PKD)に関わる PKD1遺伝子変異について、ペット保険データおよび大規模遺伝子検査データを用いた解析を行いました。
その結果、子猫への本格的な遺伝子検査が普及する前後を比較したところ、PKD1遺伝子変異を有するネコの割合が14猫種全体で42.6%減少していることが確認されました。
また、スコティッシュ・フォールド、ペルシャおよびラガマフィンでは、同変異を有するネコの割合が有意に減少していました。一方で、近親交配の程度に明確な増加は認められず、遺伝的多様性に配慮した繁殖管理が行われていた可能性が示されました。

本研究成果は、遺伝子検査の普及がネコの遺伝性疾患リスクの低減に有用であることを示唆するものです。本研究は、Springer Nature社が刊行するゲノム科学を扱う国際的な学術誌『BMC Genomics』にて2026年6月18日にオンライン公開されました。

多発性嚢胞腎(PKD)とは

<本研究の背景>
多発性嚢胞腎(PKD)(※1)は、腎臓に多数の嚢胞が形成される遺伝性疾患で、進行すると腎機能の低下や腎不全につながることがあります。特にペルシャおよびその関連品種で知られており、PKD1遺伝子(※2)上の特定の変異が主な原因の一つとされています。PKDは、発症までに時間を要することがあり、臨床症状が現れる前に繁殖に用いられる可能性があります。そのため、外見や若齢期の健康状態だけではリスクを十分に把握することが難しく、遺伝子検査による早期の確認や繁殖現場での活用が重要と考えられてきました。
近年では、こうした遺伝性疾患に関連する遺伝子変異を、消費者向け遺伝子検査(※3)によって確認できるようになってきました。特に2010年代後半から普及し、当初は繁殖に用いられる親猫を対象としていた遺伝子検査が、子猫にも広く実施されるようになり、現在では多くのペットショップ、ブリーダーで活用されています。
一方で、これまでのネコPKDに関する報告は、大学病院などの二次診療施設を受診した個体を対象とするものが多く、一般的な飼育集団における発生状況や遺伝子変異の頻度には不明な点が残されていました。また、原因変異を持つ個体を繁殖から除外する場合、近親交配(※4)の増加や遺伝的多様性の低下も懸念されていました。
そこで本研究では、ペット保険データと大規模遺伝子検査データを用いて、PKDの全体像の把握、PKDとPKD1遺伝子変異の頻度の関連や、実際にその頻度がどのように変化しているのか、また、その変化がネコ集団全体の遺伝的構造に影響しているのかを検証しました。

<本研究の成果>
1. 保険データから、嚢胞性腎疾患の発生状況を解析
本研究ではまず、アニコム損保のペット保険請求データを用いて、14猫種における嚢胞性腎疾患の発生状況を調べました。「10年以上継続した保険契約データを有する群」12,589頭のうち、保険金請求上でPKDまたは腎嚢胞に関連する診断が確認されたネコは21頭でした。初めて当疾患で請求が確認された年齢の中央値は5歳であり、品種、性別、年齢による明確な差は認められませんでした。また、「保険契約期間を問わず遺伝子検査実施のデータを有する群」は33,576頭で、保険データと遺伝子検査データを紐づけて解析したところ、嚢胞性腎疾患が確認されたネコの9頭中7頭(77.8%)が、従来から知られているPKD1遺伝子変異を有していました。このことから、日本国内の保険データ解析結果からも、ネコのPKDの多くにPKD1遺伝子変異が関与していることが示されました。
一方で、嚢胞性腎疾患が確認されたネコの中には、従来型のPKD1遺伝子変異を持たない個体も含まれていました。そこで、以前アニコム パフェらが開発し、ギネス世界記録にも認定されたAnAms1.0の参照配列のデータ(参考:『世界で最も精度の高い猫のゲノム配列』としてギネス世界記録™に認定)と、アニコム パフェが検査サービスとして展開している独自技術であるエクソーム解析および全ゲノム解析(※5)を組み合わせ、PKD関連遺伝子に存在する他の候補変異を探索したところ、PKD関連遺伝子に8個の新たな候補となる変異が確認されました。これにより、従来型PKD1変異以外の遺伝的要因が関与する可能性も示唆されました。

2. 61,968頭の遺伝子検査データから、PKD1変異の頻度変化を解析
次に、14猫種61,968頭の遺伝子検査データを用いて、PKD1遺伝子変異の頻度を解析しました。その結果、2022年時点では、PKD1遺伝子変異を有するネコの割合に品種差が認められました。ヒマラヤン、ペルシャ、スコティッシュ・フォールドなどで変異が確認された一方、ラグドール、メイン・クーン、ベンガル、ロシアンブルーでは、本研究データ中に従来型PKD1変異を有するネコは確認されませんでした。また、子猫への本格的な遺伝子検査が普及する前後で比較したところ、14猫種全体で、PKD1遺伝子変異を有するネコの割合は42.6%減少していました。さらに、十分なサンプル数が得られた8猫種について詳細に解析した結果、スコティッシュ・フォールド、ペルシャ、ラガマフィンでは、PKD1遺伝子変異を有するネコの割合が有意に低下していました。特に、ペルシャでは減少率38.8%、スコティッシュ・フォールドでは減少率49.5%(2019年の3.2%から2022年には1.6%)が確認されました。

PKD1変異の頻度変化

3. 遺伝子変異の減少と近親交配の関係を検証
遺伝性疾患に関わる変異を減らす取り組みでは、変異を有する個体を繁殖から除外することで、繁殖に用いられる個体数が減少し、近親交配が進む可能性があります。そこで本研究では、PKD1遺伝子変異の頻度低下が確認されたスコティッシュ・フォールドおよびペルシャについて、ゲノム全体の変異データを用いた集団遺伝学的解析を行いました。
その結果、2019年と2022年の比較において、集団全体の遺伝的構造に大きな変化は認められませんでした。また、近親交配の程度を示す指標についても、有意な上昇は確認されませんでした。一方で、PKD1遺伝子変異を有するネコの集団では、有しない集団と比較して、実際の繁殖に貢献している推定個体数である有効集団サイズ(※6)の顕著な低下が認められました。これは、PKD1遺伝子変異を有する個体が繁殖に用いられる機会が減少した可能性を示しており、遺伝子検査を活用した繁殖管理が進んでいることを示唆しています。

<本研究の意義>
本研究により、ネコのPKDに関わるPKD1遺伝子変異は、遺伝子検査の普及に伴って一部の品種で減少していることが明らかとなりました。特に重要なのは、PKD1遺伝子変異の減少が確認された一方で、スコティッシュ・フォールドおよびペルシャにおいて、近親交配の程度に明確な増加が認められなかった点です。これは、遺伝子検査を単に「変異を持つ個体を除外する」ためだけに用いるのではなく、遺伝的多様性にも配慮しながら繁殖計画に活用することで、遺伝性疾患リスクの低減と動物福祉の向上を両立できる可能性を示しています。これまでの共同研究チームの研究で、コーギーやミニチュア・ダックスフンドの遺伝性疾患の関連変異でも同様の結果が得られました(参考①:イヌの致死性遺伝性疾患『変性性脊髄症(DM)』撲滅に向けさらに前進)(参考②:遺伝子検査の普及が犬の「進行性網膜萎縮症(PRA)」リスクを大きく低下)。
一方で、ブリティッシュ・ショートヘア、ミヌエット、マンチカンなど、一部の品種ではPKD1遺伝子変異の減少は確認されませんでした。今後は、こうした品種においても遺伝子検査の活用を進め、適切な繁殖管理のあり方を検討していくことが重要です。

<今後の展望>
本研究では、従来型のPKD1遺伝子変異がネコのPKDに大きく関与していることが改めて示されました。一方で、PKD1遺伝子変異を持たないにもかかわらず嚢胞性腎疾患が確認されたネコも存在しており、未知の遺伝的要因や、従来の単一遺伝子検査では把握が難しい要因が関与している可能性も示唆されました。
今後は、次世代シークエンサーを用いた網羅的なゲノム解析や、より大規模な保険データ・臨床データとの統合解析を進めることで、ネコのPKDをはじめとする遺伝性疾患の発症メカニズムの解明が期待されます。


<原論文情報>
掲載誌: BMC Genomics
論文リンク:https://link.springer.com/article/10.1186/s12864-026-13048-4
原題:Widespread genetic testing controls inherited polycystic kidney disease while avoiding inbreeding in cats
著者名: Hisashi Ukawa 1,2, Akane Kida 2, Kai Ataka 1, Ryo Horie 2,3, Yuki Matsumoto 1,2,3,4

1:アニコム パフェ株式会社 検査事業部
2:アニコム損害保険株式会社 R&D部
3:アニコム先進医療研究所株式会社 研究開発部
4:麻布大学データサイエンスセンター

<用語解説>
(※1)多発性嚢胞腎(PKD:Polycystic Kidney Disease)
腎臓に多数の液体が詰まった袋(嚢胞)が形成される遺伝性疾患。嚢胞が徐々に大きくなることで腎機能が低下し、重症化すると腎不全に至ることがある。ネコでは特にペルシャやその近縁品種での発症が知られており、発症前に繁殖に使われることがあるため、遺伝子検査による事前確認が重要とされている。
(※2)PKD1遺伝子変異:多発性嚢胞腎の主な原因となる遺伝子上の変異。この変異を1コピー持つだけで発症する(優性(顕性)遺伝)。ネコのPKD症例の大部分(約80%)はこの変異が原因とされており、遺伝子検査で事前に確認できる。
(※3)消費者向け遺伝子検査
医療機関を介さずに、飼い主やブリーダーが直接申し込める遺伝子検査サービス。口腔粘膜のぬぐい液などを採取して送付するだけで、遺伝性疾患のリスク変異の有無を調べることができる。
(※4)近親交配
血縁関係の近い個体同士を交配すること。近親交配が進むと遺伝的多様性が失われ、遺伝性疾患や体質の弱さが現れやすくなるリスクがある。本研究では、PKD1変異の減少と並行して近親交配の増加がみられなかったことが重要な成果の一つである。
(※5)エクソーム解析・全ゲノム解析
遺伝子の塩基配列を網羅的に読み取る解析手法。エクソーム解析はタンパク質をつくる領域に絞って解析し、全ゲノム解析はゲノム全体を対象とする。既知の変異では説明できない症例の原因探索等に用いられる。(参考:網羅的な遺伝子検査:NGS検査サービス)
(※6)有効集団サイズ
実際の繁殖に貢献している個体数を遺伝学的に推定した値。頭数そのものではなく、「遺伝的な多様性の維持にどれだけの個体が関与しているか」を示す指標。本研究では、PKD1変異を持つネコの有効集団サイズが低下していたことから、変異を持つネコが繁殖に使われる機会が減ったと推定された。

本件に関するお問い合わせ先

事務局 入試広報・渉外課

檜垣

住所
神奈川県相模原市中央区淵野辺1-17-71
FAX
042-754-7661
E-mail
koho@azabu-u.ac.jp

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