【玉川大学学術研究所長 小野正人教授 共同研究成果】高校生が授業中に世界的貴重なマルハナバチ化石を発見 ―化石は30万年前の全長24mmの大型女王バチ―
しかし、マルハナバチの化石はこれまで世界からは、わずか14種しか見つかっておらず、標本数も15個だけです。それらはすべて始新世から中新世までの約3,600万年前から1,000万年前の間にしか発見されていませんでした。またそれらはすべて絶滅種であり、それ以降の新しい時代からは発見されていませんでした。
本研究の成果は、2025年10月6日に日本古生物学会の国際誌『Paleontological Research』のオンライン版で公開されました。
1.研究の経緯
化石は、2024年10月に、慶應義塾湘南藤沢高等部(神奈川県藤沢市)で行われた3年生の「選択地学」の授業中に、市川綾萌さん(現在慶應義塾大学法学部在籍)が発見したものです。授業を担当したのは、竹田大樹教諭であり、相場博明名誉教諭は、その授業の支援を行っていました。
相場博明名誉教諭は、化石はマルハナバチ属のものであると同定し、ミツバチの専門家である玉川大学の小野正人教授に研究の協力を依頼しました。その結果、化石は現在の日本に生息するトラマルハナバチ(図1)にもっとも形態が似ていることからトラマルハナバチ比較種と同定されました。
授業中に高校生が学術的に貴重な化石を発見したのは、2年前(2023年12月)にもありました。慶應義塾高等学校(神奈川県横浜市)の理科の授業中に、当時高校3年生の八谷(やたがい)航太さんがセンチコガネの化石を発見し、それが新種であることがわかり、日本古生物学会の国際誌で報告されました。授業中に新種の昆虫化石が見つかったのは世界初の出来事であり大きなニュースになりました。高校生が授業中に学術的に貴重な化石を発見したのは今回で二度目になります。
2.標本の価値・重要性
マルハナバチは、英語では、バンブルビー(Bumblebee)と呼ばれ、全身を柔らかい毛で覆われた大型の丸い体から「空飛ぶぬいぐるみ」と呼ばれ、とくにヨーロッパでは人気のある昆虫です。ミツバチ科の仲間で多くの花粉を運ぶことから、世界中で花粉媒介昆虫として温室での果菜類などの交配などに利用されています。世界に約260種、日本には15種が分布しています。しかし、世界的にその数は減少しており将来の絶滅が危惧されています。
化石の頭部は保存されていなかったものの、胸部、腹部、前翅、脚の一部が保存されており、背面側の印象が保存されているもの(図2左)と腹面側の印象が保存されているもの(図2右)が得られました。翅脈の細かい部分(図3)まで観察でき、腹部の黄褐色の長い毛や、脚に生えている毛など見事に保存されていました。化石は大型であり、推定全長24mmの女王バチであることもわかりました。
ハチの化石は、昆虫化石の中では比較的多く産出しており、コハクの中からも多くのハチの化石が見つかります。日本でも、中生代と新生代の日本各地から多くのハチ化石が報告されています。栃木県の那須塩原市からも30種類ほどのハチ化石が知られていますが、それらのほとんどは1cm以下の小さなものです。
3.なぜ、授業中に化石が発見されるのか
栃木県那須塩原市にある自然史博物館の「木の葉化石園」では、握り拳大の岩石ブロックを袋に詰めてお土産用として販売していました。1995年に相場博明名誉教諭(当時慶應義塾幼稚舎教諭)は、それを教室内に持ち込んで化石採集を行う授業という指導法を開発し、1997年に論文として公表しました。そして、「木の葉化石園」の加藤正明館長は、教育機関限定で岩石ブロックを販売してくれるようになりました。
授業中に新種など学術価値の高い化石が発見されることは、世界的に例のないことです。偶然かもしれませんが高校生がこのような学術的価値の高い化石を発見したのは、1回目が新種のコガネムシの慶應義塾高校の3年生男子、2回目が今回の慶應義塾湘南藤沢高等部の3年生女子の発見でした。そして、それぞれの授業者が昆虫化石の研究者である相場博明名誉教諭と知り合いだったことから学術研究へと進みました。
「木の葉化石園」では、今後も引き続き、教育機関に岩石を提供してくださることになっており、この実習がさらに日本全体に広がっていくため、今後さらに貴重な化石が授業中に発見される可能性があります。相場博明名誉教諭は、授業中に昆虫などの珍しい化石が出た場合は知らせてほしいことを「塩原化石教育プロジェクト」で呼びかけており、学術的価値のある化石は個人で所有するのでなく、博物館などの公的機関で保存されるべきであることを伝えています。実際に現在200点ほどの昆虫化石が、授業中に発見されて「木の葉化石園」に保管されるようになりました。
<原論文情報>
【題 名】 A fossil bumblebee (Hymenoptera, Apidae, Bombini) from the Middle Pleistocene Shiobara Group in Nasushiobara, Tochigi, Japan (栃木県那須塩原市の中部更新統塩原層群からの、マルハナバチ化石(ハチ目、ミツバチ科、マルハナバチ族))
【著者名】 Hiroaki Aiba, Masato Ono
【掲載誌】 Paleontological Research
【論文URL】 https://www.jstage.jst.go.jp/article/prpsj/29/0/29_250013/_article/-char/ja
【DOI】 https://doi.org/10.2517/prpsj.250013
・マルハナバチ
マルハナバチ(丸花蜂)とは、ミツバチ科マルハナバチ属のハチ。世界で約260種、日本からは15種が知られている。アジア中央部の草原地帯に分布の中心を持ち、ヨーロッパ、東アジア、東南アジア、南北アメリカ大陸にも分布する。日本でも多くの農家がトマトやナスなどの授粉(花粉媒介)に利用している。おとなしいハチで人を刺さない。ブンブンという音を出すことから、英語ではbumblebeeと名付けられた。
国内では、北海道、本州、四国、九州、対馬に広く分布する。北海道と本州以南では、亜種が異なる。体全体が黄褐色の長い毛で覆われ、腹部の先端は黒褐色を呈している。舌が長く、蜜腺が細長い距の奥にある花からも蜜を吸うことができる。春に越冬から覚めた女王バチが1匹で巣造りを開始し、働きバチを育てて夏から秋には大きなコロニーを形成する。晩秋には多くの次世代の新女王バチが巣立ち、オスと交尾して越冬に入る。母親の女王バチ、働きバチ、オスは全て死んで巣は廃墟となり、1年周期の生活史を営んでいる。女王バチの体長は20~25㎜程度と大型であるが、働きバチは、体長10~18㎜程度と小ぶりで個体差が大きい。
昆虫の翅(はね)に見られる筋状の脈で、いくつかに分岐しており補強する機能がある。種によって特徴があるため、分類上重視されている。
始新世:およそ5600万年前から3390万年前までの時代、漸新世:およそ3390万年前から2303万年前までの時代、中新世:およそ2303万年前から533万年前までの時代、鮮新世:およそ533万年前から258万年前までの時代、更新世:およそ258万年前から1万1700年前の時代。
① 塩原木の葉石でより多くの人が化石採集の魅力を経験できること。
② 指導者が情報を共有し、より効果的な指導ができるようになること。
③ 採集された学術的価値の高い化石を保存すること。
この3つを目標に、2015年に設立されたプロジェクト。
本件に関するお問い合わせ先
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