金沢工業大学

金沢工業大学夢考房チームが自作ソーラーカーで、ソーラーカーによるオーストラリア大陸縦断3000kmのレース「2013 World Solar Challenge」に参戦

大学ニュース  /  学生の活動

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「World Solar Challenge」はオーストラリア大陸3000kmを縦断する世界最大規模のソーラーカーレースとして知られ、北部のダーウィン(Darwin)から南部のアデレード(Adelaide)まで一般車両も走行する公道を走行しタイムを競う。夢考房チームは同大会で過去1999年に初出場し総合5位(日本勢1位)、2001年は総合9位(日本勢2位)という成績を収めている。今回は12年ぶりの3度目の参戦となる。

 夢考房チームは、昨年鈴鹿で行われた国際自動車連盟(FIA)公認の世界最高峰のソーラーカーレース「ソーラーカーレース鈴鹿2012」で、「KIT Golden Eagle 5」がソーラーカーの実用化を目指す4輪ソーラーカーの国際規格「オリンピアクラス」で準優勝している。
 夢考房チームではこの「KIT Golden Eagle 5」を「World Solar Challenge 2013」参戦に向けて、全面的に作り直した。製作は1年生から4年生の学部生が主体となり行われた。
 この新「KIT Golden Eagle 5」のお披露目を8月3日(土)10時から12時まで夢考房41で開催する。

◆「KIT Golden Eagle 5」取材・撮影可能日時
●8月3日(土) 10時から12時(お披露目)
 金沢工業大学夢考房41
 *午後は秋田での試走にむけトラックへ積み込まれ、撮影の対応不可。
 *8月4日(日)から8月11日(日)まで秋田県の大潟村ソーラースポーツラインで試走

●8月12日(月)~8月18日(日) 10時から12時まで
 金沢工業大学夢考房41
 *8月19日(月)早朝にはオーストラリアへの輸送のため横浜港へと向かう。
 *選抜チーム(学生10名、教職員6名)のオーストラリアへの出発は9月23日(月)を予定。

◆参考資料◆
□「World Solar Challenge」について
 「World Solar Challenge」はソーラーカーによるオーストラリア大陸縦断レースで1987年に始まり、1999年から隔年毎に開催されている。
 オーストラリア北部のダーウィン(Darwin)を出発し、大陸の中央を縦断する幹線道路であるスチュアート・ハイウエイを南下して南部のアデレード(Adelaide)まで向かう。
 スチュアート・ハイウエイはそのほとんどが砂漠地帯を通り、またトレーラーを複数連結したロードトレインと呼ばれるオーストラリア特有の長大なトラックも行き来している。
 レース中は朝8時から夕方5時まで1日9時間走行し、夕方5時になるとそこでソーラーカーを止め、道路から10m以上離れた場所で野営する。

 「World Solar Challenge2013」は10月6日(日)朝8時30分(現地時間。日本時間朝8時00分)にダーウインのState Squareをスタートし、ゴール地点であるアデレードのHindmarsh Squqreまで、平均時速62km/h、6日間での完走を目指している。

□夢考房ソーラーカープロジェクトの車両 「KIT Golden Eagle 5」について
 夢考房チームの最大の特長は「つくれるものはすべて自分たちでつくる」ことをポリシーに活動していることにある。1991年のプロジェクト発足当初より、製品を購入して組み合わせるのではなく、自作製品の開発にこだわってきた。
 部品の多くは学生が自ら設計・製作している。技術力向上を目的に、積極的に企業に協力を依頼し、指導を受けることでブレークスルーを図ってきた。学内の施設では製作できないブレーキ部品、ホイールやサスペンションのショックアブソーバ(タイヤから伝わる力を緩衝する部品)などについても、学生自身で設計し企業に製作を依頼するという原則で活動している。

 「KIT Golden Eagle 5」は2011年に完成し、昨年鈴鹿で行われた国際自動車連盟(FIA)公認の世界最高峰のソーラーカーレース「ソーラーカーレース鈴鹿2012」ではソーラーカーの実用化を目指す4輪車両の国際規格「オリンピアクラス」で準優勝している。
 夢考房チームは国際規格であるオリンピアクラスの開発当初から、世界大会への出場を夢見てきた。「World Solar Challenge2013」の車両規則に合わせるために「KIT Golden Eagle 5」を全面的に作り直し、技術力・チーム力を向上させ、世界へ挑戦する準備を整えた。

□「KIT Golden Eagle 5」の特長
 モーターやボディにいたるまで自作。ヘアドライヤーを動かす程度の電力(約1000W)で、オーストラリア大陸縦断3000kmを平均時速62km/h、6日間での完走を目指している。
 2012年の「鈴鹿仕様」と2013年の「World Solar Challenge仕様」(以下「WSC仕様」)との主な改善点は下記の通り。

●モーターを新たに自作。電気エネルギーのほとんどを動力に変換可能
 夢考房ソーラーカープロジェクトは2005年からモーターも自作している。
 「KIT Golden Eagle 5」は前輪2輪に学生自身で設計・製作したインホイールモータを搭載。プロジェクトでは「競技に勝つには他チームが使っている市販品を越えるものを作らなければならない」という考えから「World Solar Challenge」出場のためにモーターを新たに設計製作した。このWSC仕様で作られたモーターのエネルギー変換効率(電気エネルギーから機械エネルギーへの変換効率)は市販品の高性能モーターの95%を越える、97.5%を達成しており、電気エネルギーのほとんどを動力に変換している。(鈴鹿仕様は92%)

●ボディを新たに自作し、走行抵抗を軽減
 「World Solar Challenge2013」はこれまで夢考房チームが出場してきた「ソーラーカーレース鈴鹿」とは車両規則が異なるため、ボディの形状を変更する必要があった。
 ソーラーカーのボディは、空気抵抗の低減と、太陽電池の発電効率増加の2つを満足する必要がある。平地での走行抵抗は空気抵抗と転がり抵抗に大別され、そのうち空気抵抗が6~7割を占めるため、ボディの形状は曲面にしていく必要がある。一方、太陽電池は平面に貼り付け発電電力を均一にすることが望ましいため、ソーラーカープロジェクトでは、熱流体解析ソフトを用いてシミュレーションを行い、曲率を抑えつつ空気抵抗を小さく出来る形状を決定。協力企業がボディの型を作り、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を学生自身で貼り込み・焼き上げ、手作業でボディを完成させた。

●自作ボティでの主な改善点・変更点
1)空気抵抗を低減
 ・空気抵抗係数は0.25(鈴鹿仕様)から0.2(WSC仕様)に低減
 ・「前面投影面積[m2]」(物体を真正面から見たときの面積)は1.247(鈴鹿仕様)から1.23(WSC仕様)に低減
 ・「空気抵抗」(空気抵抗係数と前面投影面積を掛けた数値)は鈴鹿仕様より低減
2)転がり抵抗の低減のため車両を軽量化
 車両重量は146kg(鈴鹿仕様)から134kg(WSC仕様)へと軽量化を目指している。
 これによりモーターの消費電力も鈴鹿仕様の1570Wから1150W(66km/h巡航時)にまで低減させることに成功。
3)その他ボディに関する主な変更点
・ドライバー頭部のスペースを広げるためキャノピ(操縦席の風よけの覆)を大型化
・ボディ後方を延長。全長4m(鈴鹿仕様)から4.5m(WSC仕様)へ
・ホイールが14インチ(鈴鹿仕様)から16インチ(WSC仕様)へ大径化したことに伴い全高を高くする
・ボディ前方(ノーズ部分)に広告用スペースを設けることが義務付けられ、太陽電池貼り付け面積が減少

●新設計の「MTTP」は太陽電池が本来出せる電力の98.5%を引き出す
 太陽電池の光を電気に変換する際のエネルギー変換効率は、約20%である。日射強度やパネルの温度で電流、電圧が常に変化する特徴があるため、上手く制御しないと取り出せる電力はさらに低くなってしまう。「MTTP」(太陽電池最大電力点追尾装置)を使用して、電圧と電流を自動調節することで、これらの積である電力が最大になるよう制御できる。
 「MPPT」に必要な能力は、最大電力を瞬時に追尾し、取り出した電力を効率よくバッテリーやモーターに供給することである。今回学生が企業の技術者より指導を受け、設計・製作したWSC仕様の「MPPT」は、98.5%の効率でバッテリーやモーターにエネルギーを供給することができる(鈴鹿仕様は97%)。追尾速度も改善し、天候や環境の変化に瞬時に順応、常に最大電力を追尾することができる。

●新規導入の太陽電池モジュールで発電電力がさらに高まる
 太陽電池セルのエネルギー変換効率は、約20%。連結とラミネートのモジューリングによって効率は1~2%低下してしまう。今回学生がWSC仕様モジュールのために、連結に使用する電極材料やラミネートに使用するフィルム材料を調査・研究し、効率悪化を0.5%にまで縮めた(鈴鹿仕様は1%の悪化)。WSC仕様の「KIT Golden Eagle 5」の太陽電池モジュールは実際の測定値で1050W(5.4平方メートル、日射強度1000W/平方メートル時)。鈴鹿仕様での970W(5.2平方メートル)よりもさらに向上させている。

●後輪2輪を電子制御で操舵。切り返し無しでUターンできる4WS(4輪操舵)を自作
 「World Solar Challenge」では、道幅16mをハンドルの切り返し無しでUターンしなければならないという規則がある。これをクリアするために、後輪を電子制御で操舵させ旋回半径を小さくする工夫をしている。

●オーストラリアの市販の軽自動車規則に準拠したロールバーを自作
 オーストラリア大会の場合、5Gの加速度に耐えることが要求されている。1Gは静止状態における車両の質量を意味する。KIT G.E.5の場合、1G状態で250kgを想定し、5Gはその5倍の1250kgの荷重になる。コンピュータ上でロールバーの頂点に3つの方向から1250kgの荷重をかけて、変形が2mm以内に収まるように設計した。材質は、アルミ合金。溶接で繋ぎ合わせている。
ロールバーは、キャノピ(操縦席の風よけの覆)形状と共にオーストラリアの「インフラ・運輸省」が定める市販の軽自動車が守るべき規則に準拠する必要がある。この規則には、ドライバーの頭部に必要な空間、ロールバーの適切な形状、つなぎ方、シャーシへの設置方法などが細かく定められており、これらすべてを満足する形状に仕上げることができた。

□夢考房について
 夢考房は課外における学生の自由なものづくりの場として1993年に設立された。この夢考房を拠点に、大学からの予算支援のもと、革新的なものづくりに取り組んでいるのが「夢考房プロジェクト」である。この「ソーラーカー」や燃費2500km/リットルという究極のエコカーを製作した「エコラン」、先尾翼機という独創的な機体を製作し「鳥人間コンテスト」に出場した「人力飛行機」、NHK大学ロボコンでは3度の優勝実績を誇る「ロボット」など14のプロジェクトに約480名の学生が参加し、予算管理から製作・組織運営に至るまですべて学生主体で活動し、大きな成果を挙げている。

□「World Solar Challenge2013」出場チームについて
「World Solar Challenge2013」には26カ国から47チームが参加を予定している。
(オフィシャルサイトにもとづく http://www.worldsolarchallenge.org/ )

「World Solar Challenge2013」は下記の3つのクラスで行われる。
●「Challenger Class」(チャレンジャークラス)
 快適さや実用性よりも、効率を第一に考えた4輪車両を設計し3000kmの完走タイムを競う。(チャレンジャークラスは今大会から4輪が義務化。)
 夢考房チームほか国内外の有力チームはこのチャレンジャークラスで出場する予定。
●「MICHELIN Cruiser Class」(クルーザークラス)
 2013年大会新設クラス。実用化が念頭に置かれた二人乗り車両のクラス。
●「GOPRO Adventure Class」(アドベンチャークラス)
 初心者向けのクラス。

 このうち夢考房チームが出場する「Challenger Class」には20カ国から28チームが参加する予定。

▼本件に関する問い合わせ先
 金沢工業大学 広報課
 石川県野々市市扇が丘7-1
 TEL: 076-246-4784
 E-Mail: koho@kanazawa-it.ac.jp