北里大学

北里大学、日本女子大学等の研究グループがセキセイインコの発声行動と脳の働き方に性差を発見

大学ニュース  /  先端研究

  • ★Facebook
  • ★Twitter
  • ★Google+
  • ★Hatena::Bookmark

佐藤亮平講師(北里大学医学部)と藤原宏子講師(元日本女子大学理学部、現人間総合科学大学人間科学部)らの研究グループは、ヒト言語を模倣することなどで知られ、優れた発声学習能力を発揮するセキセイインコを用い、つがいを組んだ配偶者の声に対する応答に、行動面でも脳の働き方でも性差があることを明らかにした。これはセキセイインコ脳がヒト脳と言語中枢の働きにおいて非常に良く似ていることを示唆している。この研究成果は、2016年1月4日、Nature Publishing Group「Scientific Reports」に掲載された。

■本研究成果のポイント
・セキセイインコには、つがいを組んだ配偶者の声に対する応答行動と脳の働き方に性差があることを明らかにした。
・ヒト感覚性言語野(ウェルニッケ野)に類似したセキセイインコ大脳領域において、オスに比べて神経応答の程度はメスが大きく、左右大脳半球ともに対称的な活性を示した。一方、オスは右大脳半球優位性(側性化)を示した。
・ヒト脳における言語機能には性差があることが知られている。したがって、セキセイインコなどの鳥の神経行動学的研究は、ヒト言語機能の理解に貢献することが期待できる。

■背景
 鳥類の中でオウムの仲間と鳴禽と呼ばれるスズメの仲間、およびハチドリの仲間は発声学習能力を持ち、ヒト言語を生物学的に理解する上で優れたモデルと考えられている。これらの鳥の中でもオウムの仲間であるセキセイインコは、ヒト言語を模倣したり、身体を音楽・リズムに合わせて同調させた動作を示すなど、人間の言語学習・音声コミュニケーション学習行動の理解への卓越したモデルになると考えられている。
 そこで、つがいを組んだセキセイインコの配偶者への発声行動とその行動の源泉である脳内の神経基盤の性差を探る目的で本研究を行った。

■研究成果の内容
 本研究では、まずオスとメスを人為的につがいにして5週間飼育した後、つがいを解消し、配偶者とそうでない異性の声を交互に聞かせて、どのように返答するかを比較した。オス・メスともに、つがいを組んでいる期間中にきちんと相手の声を覚え、配偶者の声に多く返答した。しかし、つがいを解消して1ヶ月経つと、オスの方は配偶者ではない異性の声に多く返答するようになった。さらに、この時期に、高次聴覚中枢であるCMMという領域を調べてみると、配偶者の声を聞かせた時は無音状態に比べ、メスでは左右大脳半球とも、高い活性を示した。オスでは、配偶者の声を聞かせた時、CMMの右大脳半球側でのみ活性が上昇していることがわかった。鳥とヒトの脳の比較研究から、CMMはヒト感覚性言語野に類似した領域であることがわかっている。また、ヒトでは、言語機能の左大脳半球への側性化の程度は男性の方が大きいこと、つまり、大脳半球優位性に性差があることが知られている。本研究結果は、鳥類で世界最初の報告として、鳥大脳のヒト言語野類似領域において、大脳半球優位性の性差を示した。

■今後の展開
 セキセイインコ脳を研究することで、ヒト言語機能に見られる性差の生物学的基盤や脳の側性化機序が明らかにされることが期待される。また、セキセイインコの発声学習機序の神経基盤を解明することで、失語症などの高次脳機能障害の病因解明に貢献できる。

■用語解説
(注1)鳥の発声・聴覚中枢
ヒトの言語中枢は運動性言語野(ブローカ野)と感覚性言語野(ウェルニッケ野)に大別される。一方、セキセイインコの発声中枢はNLC、高次聴覚中枢はNCM, CMMと呼ばれているが、それぞれNLCはブローカ野、NCMとCMMはウェルニッケ野に相当する。
(注2)側性化
ヒトの大脳では、言語機能などの高次脳機能は左右どちらかの大脳半球にその主要な機能が限局している場合がある。この左右大脳半球の働き方の分担の仕方を側性化と呼ぶ。

■論文に関する情報
【タイトル(和訳)】
"Sex differences in behavioural and neural responsiveness to mate calls in a parrot"
(セキセイインコの配偶者に対する発声行動と神経応答における性差)
【著者名】
Hiroko Eda-Fujiwara, Ryohei Satoh, Yuka Hata, Marika Yamasaki, Aiko Watanabe, Matthijs A. Zandbergen, Yasuharu Okamoto, Takenori Miyamoto and Johan J. Bolhuis
【掲載誌】
Scientific Reports, 6: 18481 (DOI: 10.1038/srep18481), Nature Publishing Group
【URL】
http://www.nature.com/articles/srep18481

▼本研究に関する問い合わせ先
 佐藤 亮平(サトウ リョウヘイ)
 北里大学 医学部 生理学 講師
 〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1
 TEL: 042-778-9160
 E-mail: ryou@kitasato-u.ac.jp

8396