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再生医療向け製品の品質評価は陽電子放射断層撮影法(PET)用診断薬を用いた新しいイメージング法で移植前に実施することが可能になる -- 北里大学

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北里大学 医療衛生学部 佐々木徹准教授らの研究グループは、PET用診断薬を用いた新しいイメージング法(リアルタイム・バイオラジオグラフィ法)(注1)を評価する手法を開発し、これを用いることで、再生医療向け製品の移植前の品質評価を非侵襲的に実施できることを、ヒト3次元表皮モデルを用いて示しました。この研究成果は、英国科学誌Natureの姉妹誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」誌(電子版)に2019年7月23日付けにて掲載されました。

■研究成果のポイント
(1)ヒト3次元表皮モデル(注2)を対象に、PET(注3)で汎用される[18F]フルオロデオキシグルコース(FDG)(注4)とリアルタイム・バイオラジオグラフィ法を用いた品質評価法【図1】を考案し、システムを開発しました。
(2)FDG表皮取り込みは、組織の生存細胞数および代謝の変化を反映することを証明しました【図2、3】。
(3)研究成果は再生医療製品の移植前品質評価法(組織の生存性やがん化など健全性の評価)として、今後の応用が期待されます。

■研究の背景
 近年、幹細胞やiPS細胞から組織や臓器を作製し、宿主に移植する再生医療が具現化されつつあります。厚生労働省は「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準」(注5)を定め、当該組織・臓器の品質、有効性、安全性や人の健康に与える影響を適正に評価することを求めています。しかし、現行の品質管理では、製造工程・環境管理を基本にして、移植する組織・臓器の評価は外観や異物検査などに留まっています。製品の安全性・健全性(癌化、細胞生存率など)の評価は、並行培養(注6)した組織・臓器に実施されており、移植する製品そのものには実施されていません。組織・臓器の移植前評価としては、蛍光や化学発光を用いたバイオイメージング法が考慮される。しかし、イメージング剤の多くには毒性があり使用量も多い(μM程度)ため、移植組織に残留する薬剤の生体への影響が懸念される。一方、PET診断薬は極微量(pM程度)であり、放射性同位元素の半減期(寿命)も極めて短いため、組織・臓器を移植する時には放射能はなくなります【図4】。

 本研究は、再生医療向け製品の移植前の品質評価を非侵襲的に実施することを目的として、PET用診断薬を用いた新しいイメージング法(リアルタイム・バイオラジオグラフィ法)を開発し、その有効性の検証実験をヒト3次元表皮モデルで実施しました。

■今後の展開
 現在、シート状再生医療製品として、ヒト表皮シート(自己表皮由来細胞)、ヒト心筋シート(自己骨格筋由来細胞)などの臨床利用が開始され始めています。今後、これらの製品の移植前品質評価への応用、また、再生医療製品の開発研究や経済協力開発機構(OECD)の化学品安全性評価試験の代替法への応用が期待されます。

■論文情報
・著者:Toru Sasaki, Junya Tamaki, Kentaro Nishizawa, Takahiro Kojima, Ryoich Tanaka, Ryotaro Moriya, Haruyo Sasaki, and Hiroko Maruyama
・論文タイトル:Evaluation of cell viability and metabolic activity of a 3D cultured human epidermal model using a dynamic autoradiographic technique with a PET radiopharmaceutical
・雑誌名:Scientific Reports
・掲載日:2019年7月23日付け
 https://www.nature.com/articles/s41598-019-47153-0

■特許情報
・特許名:培養組織の直接的検査方法「再生医用培養組織の品質管理技術」
・出願番号:2017-111738
・発明者:佐々木徹 

■用語解説
(注1)リアルタイム・バイオラジオグラフィ法:
 バイオラジオグラフィ法は生きている組織の代謝・機能画像を陽電子断層撮像法(PET)で使う核種を用いて収集・解析することができる新しいイメージング法。 これを発展させた「リアルタイム・バイオラジオグラフィ法」は、シート状固体シンチレータとフォトンカウンティングカメラを用いることで、組織の放射能と化学発光分布を実時間に収集・解析することができる。

(注2)ヒト3次元表皮モデル:
 ヒト細胞由来細胞と生体材料とを組み合わせた3次元人工培養皮膚。ヒト表皮構造と類似した構造を有し、ヒト皮膚の代替材料として医薬品や化粧品の安全性試験、透過性試験に利用される。

(注3)PET:
 陽電子を放出する放射性同位元素で目印をつけた薬を投与して、体内から放出される放射線をカメラで検出し、コンピュータで断層画像を合成し、代謝や機能を体外から調べることができる診断法。

(注4)[18F]フルオロデオキシグルコース(FDG):
 グルコースの類似物質であり、生体に投与されたFDGはグルコーストランスポータによって細胞内に取り込まれ、ヘキソキナーゼによってリン酸化され細胞内に集積する。組織FDGの集積性をPETで画像化することでがんや認知症を診断することができる。

(注5)再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準:
 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(平成26年8月6日公布:厚生労働省令)。

(注6)並行培養:
 細胞の健全性を調べる試験方法には、細胞の生存率や増殖率の測定、アポトーシスの検出などがある。しかし、いずれの方法ともに破壊的であり、検査後の移植を前提とする再生医療向けの組織・臓器には適用できない。そこで、組織・臓器を2セット培養(並行培養)し、その一方の健全性を破壊的な検査法で評価する。健全性が確認された場合には、もう一方の組織・臓器を移植に供する。したがって、移植される組織・臓器そのものの検査は実施されていない。

 本研究成果は、以下の研究課題により得られました。
・日本学術振興会 科学研究費補助金 平成27-29年「リアルタイムバイオラジオグラフィ法の開発と応用研究」(基盤研究C:15K01297)佐々木徹(代表者)
・医療衛生学部付属再生医療・細胞デザイン研究施設プロジェクト研究助成金 平成29年度「再生医療向け培養組織の品質管理技術の開発―バイオラジオグラフィ法を用いた研究―」佐々木徹(代表者)

▼問い合わせ先                                 
≪研究に関すること≫
 北里大学 医療衛生学部 医療工学科 診療放射線技術科学専攻
 准教授 佐々木 徹(ササキ トオル)
 〒252-0373 神奈川県相模原市北里1-15-1
 TEL: 042-778-8157
 E-mail: tsasaki@kitasato-u.ac.jp

≪報道に関すること≫
 学校法人北里研究所 総務部広報課
 〒108-8641 東京都港区白金5-9-1
 TEL: 03-5791-6422

【図1】再生医療製品の品質管理法.png 【図1】再生医療製品の品質管理法

【図2】FDGの取込みと培養日数(増殖・分化)の関係.png 【図2】FDGの取込みと培養日数(増殖・分化)の関係

【図3】FDGの取込みに対する細胞生存率の影響.png 【図3】FDGの取込みに対する細胞生存率の影響

【図4】18Fの放射能ー時間減衰曲線.png 【図4】18Fの放射能ー時間減衰曲線