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【京都産業大学】太った星の体温測定 -- 爆発前の超巨大星の表面温度を正確に測定することに成功 -- 英国学術雑誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載

大学ニュース  /  先端研究

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京都産業大学神山天文台、東京大学などからなる研究グループは、主に恒星の表面付近で形成される鉄原子吸収線を用いることで、太陽の約9倍以上の質量を持つ恒星(大質量星)が進化した姿である赤色超巨星の温度を正確に決定する方法を確立した。

 オリオン座のベテルギウスのような赤く超巨大な恒星(赤色超巨星、注1)は、大質量星(太陽の約9倍以上の質量を持つ恒星)が進化したもので、やがて超新星爆発を起こす。これらの星の進化と超新星爆発の時期を正しく予測するためには、理論モデルと天体観測の両面から赤色超巨星の正確な温度を知ることが重要であるが、過去の観測的な温度決定法では、構造が複雑な赤色超巨星の上層大気に起因する系統誤差を排除することが困難だった。
 そこで、京都産業大学神山天文台長の河北秀世教授、東京大学大学院理学系研究科・大学院生の谷口大輔らの研究グループは、上層大気の影響を受けにくい鉄原子吸収線のみを用いた温度決定法を確立した。この手法では、既に温度がよく分かっている赤色巨星(注1参照)でライン強度比(注2)と温度の間の関係を較正し、それを赤色超巨星に適用する。今までは星の複雑な数値モデルを使って誤差も大きくなりやすい温度の決定法が使われてきたのに対し、本手法は「体温計」を向けるだけで正確な温度が測れるようになったようなものであり、非常に簡便に利用することができるのである。
 京都産業大学神山天文台および東京大学が赤外線高分散ラボ(LiH)において共同開発した赤外線高分散分光器WINERED(注3)で観測した太陽系の近くにある赤色超巨星に対して今回得た温度は、現在の恒星進化理論モデルによる予測とよく合うものだった(図1)。
 今後、年齢や金属量(注4)が異なるさまざまな赤色超巨星の観測を行えば、別の銀河や宇宙の初期に生まれた大質量星など、太陽系の近くにあるような星以外に対する恒星進化の理論モデルの検証ができるようになることが期待される。

 この研究成果は、2021年2月28日(世界時)に、英国の天文学専門誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(オンライン版)』に出版された。

むすんで、うみだす。  上賀茂・神山 京都産業大学

用語解説
(注1)赤色超巨星と赤色巨星
 多くの恒星はその寿命の大半を主系列星として過ごします。この間に恒星の中心部の水素を核融合反応で燃やし尽くした後、恒星は膨張し、温度が低く明るい天体である赤色巨星や赤色超巨星へと進化します。太陽などの大部分の恒星はおうし座のアークトゥルスのような赤色巨星へと進化しますが、おとめ座のスピカのように青く太陽より約9倍以上大きな質量を持つ大質量星は特に明るい赤色超巨星へと進化します(図2左)。代表的な赤色超巨星としてオリオン座のベテルギウスやさそり座のアンタレスが挙げられます。これらの赤色超巨星はII型超新星としてその生涯の最期を華々しく終えます。

(注2)WINERED分光器
 京都産業大学神山天文台の研究プロジェクト「赤外線高分散ラボ(Laboratory of Infrared High-resolution spectroscopy: LiH)」が、民間企業との協働で開発した近赤外線高分散分光器です(図3)。2016年以前は、京都産業大学神山天文台の荒木望遠鏡(口径1.3 m)に搭載してさまざまな観測を行っていました。本研究で利用したスペクトルは、この期間の2013年から2016年にかけて取得されたものです。2017年・2018年には、チリ共和国のラ・シヤ天文台の新技術望遠鏡(口径3.58 m)に搭載して観測を行いました。現在、さらに口径の大きい(6.5 m)のマゼラン望遠鏡(チリ共和国ラス・カンパナス観測所)への移設準備を進めています。

(注3)ライン強度比
 恒星からの光をプリズムや回折格子を用いて波長ごとに分けることを分光観測と呼びます。ライン強度比とは、分光観測で得られたスペクトル中に見られる2本の吸収線の深さの比のことを指します(図4)。一般にライン強度比は恒星の温度や明るさなど様々なパラメーターに依存しますが、注意深く2本の吸収線を選ぶことで温度のみに依存するライン強度比を得ることができます。この研究では赤色超巨星の温度を決定するために、赤色巨星と赤色超巨星の近赤外線スペクトルに見られる吸収線のうち11ペア22本の鉄原子吸収線のライン強度比を用いました。

(注4)金属量
 天文学では、原子番号が3以上の元素(水素とヘリウム以外の全元素)のことを重元素と呼びます。大半の重元素は恒星の内部の核融合反応や超新星爆発により合成され、星間空間に星間ガスとして放出された後に、次世代の恒星に取り込まれます。つまり、それぞれの恒星が持つ重元素の量(金属量)はその恒星が生まれた環境(星間ガスの金属量)に依存します。また、金属量は恒星の進化過程に影響を与えることが知られています。

■関連リンク
・東京大学 太った星の体温測定--爆発前の超巨大星の表面温度を正確に測定することに成功
 https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2021/7248/
・京都産業大学 太った星の体温測定--爆発前の超巨大星の表面温度を正確に測定することに成功
 https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20210301_859_winered.html
・京都産業大学 神山天文台
 https://www.kyoto-su.ac.jp/observatory/index.html

▼本件に関する問い合わせ先

京都産業大学 広報部

住所

: 〒603-8555 京都市北区上賀茂本山

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0310press01.jpg 図1 赤く太った恒星である赤色超巨星の温度を地球から測定している様子のイメージ図。(画像クレジット:東京大学)

0310press02.jpg 図2:赤色超巨星やその他の恒星の表面温度と明るさの関係(HR図)。左図:恒星は主系列星としてその寿命の大半を過ごし、中心部の水素を燃やし尽くした後に膨張しHR図の右上へと移動する。スピカのような質量が重く青い星はベテルギウスのような赤色超巨星へと進化する。右図:ジュネーブ天文台の研究グループによる大質量星の進化モデル(実線)と本研究で得られた赤色超巨星の温度と明るさ(赤丸)。(画像クレジット:東京大学)

0310press03.jpg 図3 本研究の観測に用いたWINERED分光器と、得られた赤色超巨星のスペクトル。左図:神山天文台の荒木望遠鏡に搭載したWINERED分光器。(画像クレジット:京都産業大学神山天文台)右図:観測した赤色超巨星のスペクトルの例。スペクトルの品質の高さのおかげで、数多くの吸収線を同定することに成功している。これらの吸収線のち、赤矢印で示した4本の鉄原子吸収線は本研究で深さを測定したものである。(画像クレジット:東京大学)

0310press04.jpg 図4 赤色巨星でのライン強度比と温度の間の関係の例。左図:WINERED分光器で観測した9つの赤色巨星のスペクトルの例(温度が高い順)。左側の鉄原子吸収線は温度が異なる恒星でも深さが変わらないが、右側の鉄原子吸収線は低温の恒星で深さが深くなっている。右図:この2本の鉄原子吸収線の深さの比(ライン強度比)と温度の関係。(画像クレジット:東京大学)