名城大学

低温プラズマプロセスでナノ構造GeSn 負極膜の作製に成功~高容量Li イオン電池実現に期待~

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【発表のポイント】
 独自に開発した高圧プラズマスパッタリングを用いて、ナノ構造が均一に分散したゲルマニウム(Ge)負極膜を、単一ステップ工程で作製することに成功。
 ナノ構造ゲルマニウムスズ(GeSn)負極膜を用いたLiイオン電池で1,000 mAh/g以上の高容量を実証。

【概要】
 高エネルギー密度のLiイオン電池を実現するためには、Liイオンを大量に取り込める高容量負極の開発が必要不可欠です。Ge材料は、カーボンの理論容量372 mAh/gを超える1,600 mAh/gの理論容量であり、高容量負極の有望な材料です。しかしながら、充放電で膨張と収縮を繰り返すことで、亀裂や集電体からの剥離が起こり、高い容量が急激に低下する短寿命という問題がありました。
名城大学 次世代エネルギーマテリアルイノベーションセンターの内田儀一郎 教授、平松美根男 教授、池邉由美子 准教授、並びに理工学研究科 永井健太 大学院生、羽生侑真 大学院生、林純希 大学院生らのグループは、九州大学、大阪大学と協力して、独自の低温プラズマプロセスである高圧プラズマスパッタリングを開発し、凝集なくナノ構造が分散して配置したGeSn負極膜を、簡易な単一ステップ工程で作製することに成功しました(図1(a)(b))。さらに実際にそれを負極としたLiイオン電池で1,000 mAh/g以上の高容量を実証しました(図1(c))。このプロセスは、他の材料にも適用可能で、次世代の全固体Liイオン電池材料へと展開していくことが期待されます。
 研究成果は2022年2月2日19時(日本時間)にネイチャーパブリッシンググループの英国科学雑誌Scientific Reports(電子版)に掲載されました。
 名城大学ではノーベル化学賞を受賞した吉野彰終身教授・特別栄誉教授が開発したLiイオン電池研究を大きく展開するとともに、今後もカーボンニュートラル社会を目指した研究開発を積極的に推進します。

【詳細な説明】
1. 研究の背景
 高エネルギー密度のLiイオン電池を実現するためには、Liイオンを大量に取り込める高容量負極の開発が必要不可欠です。Ge材料は、カーボンの理論容量372 mAh/gを超える1,600 mAh/gの理論容量であり、高容量負極の有望な材料です。しかしながら、Liを取り込むことで合金化し、その際、体積が4倍近くにまで膨張する性質を持っています。充放電で膨張と収縮を繰り返すことで、亀裂や集電体となる銅電極からの剥離が起こり、高い容量が急激に低下する短寿命という問題があります。この問題を解決するためにGe材料をナノサイズ化し、膨張・収縮時の機械的応力を緩和させる研究が活発に進められています。その際、ナノ粒子を凝集なく均一に分散させて電極膜を作製することが重要です。大きな凝集体は膜中に大きな空隙や表面に大きな凹凸を形成し、電池反応を阻害する異常現象の要因となります。研究例として、ナノ粒子を液相プロセスで作製し、電極膜を作製する報告がすでに多数あります。その際の電極膜の作製は、ナノ粒子を接着材となるバインダーと混合してペースト化し、それを銅電極上に塗布し、最後に焼成するという多段階の工程です。この全ての工程で、ナノ粒子を凝集なく均一に分散させることが重要なポイントとなっています。

2. 研究内容及び本成果の意義
 前に記述した先行研究に対し本研究の特徴は、気相プロセスで30 nm程度のナノ構造を持つGe負極膜を簡易な単一ステップ工程で作製できる点です。さらにLiと反応する活物質以外の材料が含まれていないため、膜中の全材料がLiの取り込みに貢献できます。本研究では気相プロセスに低温プラズマを用いています。今回、通常のプラズマスパッタリングのプロセス圧力領域であるmTorrレンジから、サブTorrレンジへと圧力を2桁大きく変化させた独自のプロセスを開発しました(図1(a))。その結果、凝集なくナノ構造が均一に分散して配置したGe系材料負極膜を実現しました(図1(b))。また、プラズマ生成のための放電ガスを通常のArからHeに変えることで、膜中の空隙の割合を示す多孔度も約30%と高まり、微細な多孔構造を実現しています。実際にナノ構造Ge負極膜でLiイオン電池を試作し評価したところ、凝集なくナノ構造が分散した負極膜の電池で、初期の高い容量をある程度維持できることを確認しました。さらにGe材料中にSnを添加したナノ構造GeSn負極膜のLiイオン電池で1,000 mAh/g以上の高容量の維持を実証しました(図1(c))。
今回開発した高圧プラズマスパッタリングプロセスは、Ge以外の他の材料にも適用可能であり、ナノ構造を前処理等なく室温で簡易的に作製できる画期的な成果です。今後は、次世代の全固体Liイオン電池材料などへと展開していくことが期待されます。
名城大学ではノーベル化学賞を受賞した吉野彰終身教授・特別栄誉教授が開発したLiイオン電池研究を大きく展開するとともに、今後もカーボンニュートラル社会を目指した研究開発を積極的に推進します。


【論文タイトル】
タイトル:Nanostructured Ge and GeSn films by high-pressure He plasma sputtering for high-capacity Li ion battery anodes
(高容量Liイオン電池負極のために高圧力Heプラズマスパッタリングを用いて作製したナノ構造Ge, GeSn膜)
著者:Giichiro Uchida, Kenta Nagai, Yuma Habu, Junki Hayashi, Yumiko Ikebe, Mineo Hiramatsu, Ryota Narishige, Masaharu Shiratani, Yuichi Setsuhara

雑誌名:Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-022-05579-z

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
名城大学理工学部 電気電子工学科
教授 内田 儀一郎(ウチダ ギイチロウ)
電話 052-838-2579
E-mail: uchidagi*meijo-u.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<広報担当>
名城大学渉外部広報課
電話 052-838-2006
E-mail:kouhou@ccmails.meijo-u.ac.jp


▼本件に関する問い合わせ先

名城大学渉外部広報課

住所

: 愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501

TEL

: 052-838-2006

FAX

: 052-833-9494

E-mail

kouhou@ccmails.meijo-u.ac.jp

リリース画像.jpg 図1.高圧プラズマスパッタリングでナノ構造GeSn負極膜を作製。高容量を実証。