弘前大学

【弘前大学】世界初!がん幹細胞の考慮により臨床の放射線治療効果の予測に成功 -- 基礎細胞実験と臨床研究をつなぐ予測モデルを開発

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(最終更新日:

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弘前大学(青森県弘前市)大学院保健学研究科の嵯峨涼助教、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究センターの松谷悠佑研究員(現職:国立大学法人北海道大学大学院保健科学研究院講師)らの研究グループは、培養細胞と放射線の殺傷効果の関係を表現する数学的予測モデルが、がん組織は不均質な細胞集団であることから、患者さんの治療効果予測に応用することが困難であったという問題を解決した。これは、不均質性をもたらすがん幹細胞を測定し、その割合を考慮した新たな予測モデルを開発することで実現したもの。この研究では肺がんの放射線治療効果についてのみ検討されたが、今後はさまざまながん組織への応用や、がん幹細胞の含まれる割合が異なる患者さんに合わせたカスタマイズされた治療にも期待される。この研究成果は、2023年2月15日に『Radiotherapy and Oncology』(インパクトファクター 6.901)に掲載される。

【本件の概要】
 国立大学法人弘前大学(学長:福田眞作)大学院保健学研究科の嵯峨涼助教、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範)原子力基礎工学研究センターの松谷悠佑研究員(現職:国立大学法人北海道大学(総長:寳金清博)大学院保健科学研究院講師)らは、''がん幹細胞を考慮することで臨床の放射線治療効果の再現が可能な予測モデルの開発''に世界で初めて成功した。

 放射線治療は、手術や抗がん剤治療と並ぶがんの3大治療法の一つ。放射線治療によるがんの治療効果は、培養細胞を用いた生物実験に基づき開発された細胞応答モデル(予測モデル)を使用して、放射線の量(線量)と細胞殺傷効果(細胞死)の関係を推定することにより評価可能である。しかし、基礎細胞実験では均質な細胞集団を使用した実験が多い一方、臨床で取り扱うがん組織は不均質な細胞集団であるため、細胞実験により決定されるモデルパラメータでは臨床の治療効果の再現は不可能であった。

 この課題を解決するため、細胞実験などの基礎研究と臨床研究をつなぐ橋渡し研究が希求されてきた。従来の細胞実験において治療効果を予測する際は、生体内の腫瘍が均質な細胞集団である仮定に基づき治療効果の予測モデルが開発されてきた。しかし、臨床において治療されるがん組織は、放射線に対してさまざまな細胞応答を示す不均質な細胞集団で構成されている。そこで嵯峨助教らの研究グループは、不均質な細胞集団の中でも高い抵抗性を示すがん幹細胞に着目し、その割合を測定し、不均質な細胞集団を考慮した細胞殺傷効果予測モデル(integrated microdosimetric-kinetic (IMK) モデル)を開発することで、細胞実験データから臨床の治療効果が再現できると考えた。

 嵯峨助教らは、がん幹細胞の存在を考慮した新たな細胞応答モデルを開発し、その有用性を検証するために、肺がん(非小細胞がん)の治療効果の解析を進めた。その結果、開発したモデルを用いることで、細胞実験で測定される肺がん細胞の細胞殺傷効果、ならびに臨床における肺がん患者の治療効果を同時に再現することに成功した。これらの成果により、共通のモデルパラメータを用いて細胞実験による基礎研究成果と臨床成果を再現するためには、腫瘍組織に約8%存在するがん幹細胞の存在の考慮が重要な鍵であることを明らかにした。

 本研究では肺がんの放射線治療効果について検討したが、今後は肺がん以外のがん組織に対しても適用し、不均質な細胞集団の考慮に対する重要性を明らかにする予定。また、この技術を応用することで、がん幹細胞の含まれる割合が異なる患者さんに合わせたオーダーメイド治療への発展につながると考えている。

 この研究成果は、2023年2月15日に『Radiotherapy and Oncology』(インパクトファクター 6.901)に掲載される。

▼本件に関する問い合わせ先

弘前大学保健学研究科総務グループ

住所

: 青森県弘前市本町66番地1

TEL

: 0172-39-5926

E-mail

jm5906@hirosaki-u.ac.jp

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