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【名城大学】初期段階の小さな癌などの自動検知に貢献できる可能性ー医用画像内の領域分割を自動で行うAIの新しい学習方法を提案ー

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名城大学理工学部電気電子工学科の堀田一弘教授(画像認識、機械学習)と博士後期課程3年の加藤聡太は、AIが医用画像に写り込んでいる被写体(臓器等)をピクセル単位で識別するための、新たな学習方法を提案しました。
本研究成果は、2023年 12 月6日にElsevierの国際論文誌「Computers in Biology and Medicine」の電子版(https://doi.org/10.1016/j.compbiomed.2023.107695)に掲載されました。

【本件のポイント】
・医用画像内の領域分割を自動で行うAIの新しい学習方法
・自動心臓診断チャレンジの臓器識別で94.26%の最高識別精度を達成
・医師では発見が難しい疾患や初期段階の小さな癌などの自動検知に貢献できる可能性

【研究の背景】
近年、 医学分野や細胞生物学分野では、画像に写り込んでいる被写体の画素一つ一つを分類する画像解析技術のセマンティックセグメンテーション1)が重要視されています。セマンティックセグメンテーションは物体が重なっていると区別が難しいという欠点がありますが、空や道路などの不定形の領域を検出することが可能です。そのため、車の自動運転や医用画像解析など幅広い分野で活用が進んでいます。特に医療分野においては、内視鏡画像から腫瘍領域の自動特検出や、CTやMRI画像からの病気の自動診断など、幅広く利用されています。
より高い精度を達成するため深層学習を基にした手法が提案されていますが、セマンティックセグメンテーションのための深層学習モデルの学習には単純なコスト関数2)が用いられる場合が多く、画像内に大きさの異なる物体が複数存在している場合、小さい物体に対する識別精度が不十分であることが問題でした。

【研究内容】
そこで我々の研究では、従来のコスト関数を再考し、より領域間で不均衡が発生するセマンティックセグメンテーションに特化したコスト関数を定式化しました。 従来のコスト関数を変形すると、特徴量の内積に基づくコサイン類似度3)を用いたコスト関数に書き換えることが可能であることを発見しました。この結果から、各クラスで同じコサイン類似度を用いた学習が、本質的な問題点であると考えられます。

そこで提案手法では、コサイン類似度の代わりにt-vMF類似度4)を用いたコスト関数を新たに提案しました。 このt-vMF類似度を用いることにより、コサイン類似度の形を自由に変えることが可能となります。これにより、分割したい領域の大きさごとに最適なコスト関数を使用することができ、小さい物体に対しても効果的な学習が可能となりました(添付図1)。その結果、内視鏡画像からの腫瘍検出や、CT画像からの多臓器の識別を用いた実験の結果、提案手法は従来の学習方法よりも精度が大幅に改善することを確認しました(添付図2, 図3)。
また最新の深層学習モデルを提案する方法で学習させることにより、精度をさらに改善することが可能であり、自動心臓診断チャレンジデータセット5)で現在最高精度を達成している深層学習モデルに、提案手法の学習方法を適用することで、精度をさらに更新して94.26%の最高識別精度を達成しました。このチャレンジのコンペティションは既に終了していますが、提案されている最新のモデルにも提案手法は有効であることが確認できました。

【今後の展開】
今後は自動運転のための車載画像や河川の監視カメラを用いた水位の予測など、医療分野以外での提案手法の多様な汎化性能について検証したいと考えています。

【謝辞】
この成果の一部は、JSPS科研費 23KJ2065、22H04735の支援を受けたものです。

【用語の解説】
1) セマンティックセグメンテーション:画像を画素レベルで分類するための深層学習を用いた画像認識技術
2) コスト関数:AIの誤差を定量化することを目的とした関数。このコスト関数の返す値を最小化するように、AIのパラメータの重みと閾値を学習する。
3) コサイン類似度:2つのベクトルがどの程度似ているかを表す尺度
4) T-vMF類似度:これまで使用されてきたコサイン類似度の範囲を自由に変化させることができる類似度関数
5) 自動心臓診断チャレンジデータセット(Automated Cardiac Diagnosis Challenge):医用画像分野のトップカンファレンスであるMICCAI2017で開催された、心臓のMRI画像から領域を分割するコンペティション(コンペティションは既に終了済みであるが、データセットは公開されている)。

【研究に関するお問い合わせ先】
名城大学 理工学部電気電子工学科 教授 堀田 一弘
E-mail:kazuhotta at meijo-u.ac.jp (atを@に置き換えてください)


▼本件に関する問い合わせ先

名城大学渉外部広報課

住所

: 愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501

TEL

: 052-838-2006

FAX

: 052-833-9494

E-mail

koho@ccml.meijo-u.ac.jp

画像5.png 図1: 提案手法の概要。従来では大きさの異なる各領域の学習に同じ類似度関数を使用していたが、提案手法では大きさの異なる各領域に対し、異なる類似度関数を適用することが可能となりました。

画像3.jpg 図2(上段画像):内視鏡画像を用いた定性評価結果、図3(下段画像): CT画像を用いた定性評価結果