- ★Google+
- ★Hatena::Bookmark
昭和大学(東京都品川区/学長:久光正)の高山靖規講師(医学部生理学講座生体制御学部門)と自然科学研究機構 生理学研究所の富永真琴教授(細胞生理研究部門)らは、炎症時においてリン酸化されるカプサイシン受容体TRPV1が、通常では痛みを引き起こさないような感覚刺激(低濃度のカプサイシンや37℃の熱刺激)によって僅かに活性化すると、その下流においてアノクタミン1を強力に活性化させることを証明しました。これにより、リン酸化TRPV1とアノクタミン1の相互作用を阻害することが新たな鎮痛薬開発に繋がることが期待されます。本研究成果は2024年1月12日 に、日本疼痛学会誌『Pain Research』に掲載されました。
唐辛子に含まれる主な辛味成分であるカプサイシンは皮膚の感覚神経に発現するTRPV1(カルシウム透過性を有するイオンチャネル)を活性化させます。そのため、辛いものを食べた時に感じるような焼けるような痛み(灼熱痛)の分子メカニズムはTRPV1が主に注目されてきました。灼熱痛は炎症などの病的な状態でも感じるため、これまで多くの製薬会社などが鎮痛薬としてTRPV1阻害薬の開発を進めていましたが、副作用の問題があり臨床使用されているものはありません。そのため、新しいコンセプトに基づく新規鎮痛薬の開発が重要となります。
細胞内のカルシウムによって活性化するクロライドチャネルであるアノクタミン1(ANO1)もTRPV1を持つ感覚神経に発現しており、その活性化は灼熱痛を強めることが、筆者らのこれまでの研究で明らかとなっています。活性化したTRPV1を介して細胞内に流入するカルシウムによってアノクタミン1が活性化されると神経興奮が高まるため、辛いものを食べた時に感じる灼熱痛のような急性疼痛(※1)が増悪するのですが、炎症性疼痛(※2)などにおけるこの二分子間の相互作用は不明でした。
炎症においてTRPV1は細胞内に存在するプロテインキナーゼC(PKC)というタンパク質によってリン酸化を受けます。リン酸化TRPV1は通常よりも活性化しやすくなっており、これが痛覚過敏(※3)やアロディニア(※4)の原因と考えられています。そこで今回、PMAという化合物を使ってTRPV1を人工的にリン酸化し、この炎症類似条件においてTRPV1とアノクタミン1の相互作用がどのように変化するのか電気生理学的・生化学的に解析しました。
その結果、これまで言われていたように、通常ではTRPV1をほとんど活性化しない濃度のカプサイシンや37℃という深部体温程度の熱刺激によってTRPV1は弱く活性化されました。ところが、この弱いTRPV1活性化を介してもなお、アノクタミン1は強く活性化することが判明しました。この際、リン酸化TRPV1とアノクタミン1同士の直接的なタンパク質間結合は、リン酸化させていないTRPV1の時と比べて変化はありませんでした。これらの結果は、TRPV1とアノクタミン1の相互作用においては、リン酸化TRPV1の活性化だけに依存してアノクタミン1が活性化することを示しています。
本研究から、炎症性疼痛を抑えるためには、TRPV1もしくはアノクタミン1を阻害することが有効である可能性が示されました。しかし、TRPV1阻害剤の開発は滞っており、アノクタミン1は痛み以外にも涙液分泌や皮膚再生の促進に関与することが知られています。そのため今後は、TRPV1とアノクタミン1の相互作用を選択的に阻害することが新しい鎮痛薬のコンセプトになることが本研究によって提示されました。
本研究成果は、完全英語化され2024年より国際誌として生まれ変わった、日本疼痛学会誌『Pain Research』において、その最初の論文として2024年1月12日に掲載されました。
■用語解説
※1 急性疼痛
怪我をした時などに感じる痛みのこと。傷が癒えると自然と感じなくなる、生物に危機的環境を知らせる重要な痛みである。
※2 炎症性疼痛
炎症を起こしている部位で感じる痛み。急性疼痛と違い、痛覚過敏やアロディニアといった生理的ではない痛みが生じる。
※3 痛覚過敏
痛みを引き起こす刺激(カプサイシンや42℃を超えるような熱刺激など)であっても程度が小さければ強い痛みは感じない。しかし、そのような弱い刺激であっても強く痛みを感じるような状態のことを痛覚過敏という。
※4 アロディニア
異痛症とも呼ばれる痛み。通常では痛みとはならない刺激(体温など)によって強い痛みが生じるような状態のこと。帯状疱疹などで服が皮膚に擦れただけで生じる、刺されるような痛みなどもアロディニアに属する痛み。
■論文情報
・掲載誌: Pain Research
・論文名: Phosphorylated TRPV1 and ANO1 ⁄ TMEM16A interaction induced by low concentration of capsaicin or innocuous heat stimulation
(低濃度カプサイシンもしくは非侵害性熱刺激により誘発されるリン酸化TRPV1とANO1/TMEM16Aの相互作用)
・著者名: Yasunori Takayama*, Makoto Tominaga (*Corresponding author)
・掲載日: 2024年1月12日
・DOI: https://doi.org/10.11154/pain.39.1
▼本件に関する問い合わせ先
昭和大学 医学部生理学講座生体制御学部門 講師
高山 靖規(たかやま やすのり)
TEL: 03-3784-8110
E-mail: ytakayama@med.showa-u.ac.jp
自然科学研究機構 生理学研究所 細胞生理研究部門 教授
富永 真琴 (とみなが まこと)
TEL: 0564-59-5286
E-mail: tominaga@nips.ac.jp
▼本件リリース元
学校法人 昭和大学 総務部 総務課 大学広報係
TEL: 03-3784-8059
E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
TEL: 0564-55-7722
E-mail: pub-adm@nips.ac.jp
大学・学校情報 |
---|
大学・学校名 昭和大学 |
URL https://www.showa-u.ac.jp/ |
住所 品川区旗の台1-5-8 |
昭和大学は医学部、歯学部、薬学部、保健医療学部の4学部が揃う「医系総合大学」です。創立以来、“常に相手の立場に立ってまごころを尽くす”という意味の「至誠一貫」を建学の精神に掲げ、思いやりのある人間性豊かな医療人の育成を最大の使命として、教育と研究に取り組んでいます。患者さんに誠意を持って接し、患者さん本位の医療を提供すること。そして忘れてはならないのは医療人同士の思いやりです。昭和大学には、この医療人同士が心を通じ合わせて治療にあたる「チーム医療」の学びがあります。 1年次の富士吉田キャンパスでの全寮制では4学部の学生が一緒に生活し、医療人として大切なコミュニケーション能力と相手を思いやる心を育みます。そして2年次より専門科目を学びながら、継続的に最終学年まで体系的なチーム医療教育を実践しているのが大きな特色です。 |
学長(学校長) 久光 正(ひさみつ ただし) |