龍谷大学

【龍谷大学】陶器で醸造された日本酒の発酵過程における 釉薬の影響を評価 釉薬のかかった陶器と素焼きの陶器で醸造実験を行い、発酵温度やエタノール生成量、味覚や香りの特性など、日本酒の醸造における容器の影響を見出す

大学ニュース  /  先端研究

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【本件のポイント】
・素焼きの陶器で醸造された日本酒は、釉薬①)のかかった陶器と比較して、エタノールや特定の元素の濃度が高く、風味に影響を与える可能性が判明。
・日本酒の発酵過程における容器の影響は従来考えられていたよりも重要であり、伝統的な手法と現代の技術を結ぶ新たな知見を提供。

【本件の概要】
日本酒は、大きな醸造量を得るために木樽が採用される以前から、千年以上にわたり陶器で醸造されてきました。最近行われた陶器で醸造された日本酒の分析では、素焼き陶器で醸造された日本酒には、釉薬のかかった陶器で醸造されたものよりもエタノールが多く含まれていることが示されましたが、陶器で醸造された日本酒の特性についてはほとんど知られていません。
本学農学部・発酵醸造微生物リソース研究センター②)長の田邊 公一教授と、本学農学部、奈良文化財研究所③)の研究者らのグループは、同じサイズの2種類の陶器容器(釉薬のかかった陶器と素焼きの陶器)を使用して小規模な日本酒の醸造を行い、釉薬が発酵特性に与える影響を評価しました。比較実験の結果、素焼きの陶器ではもろみの温度が低く、蒸発による重量減少が多く見られました。また、素焼きの陶器で醸造された日本酒のエタノール、Fe3+、およびCa2+の含有量は、釉薬のかかった陶器で醸造されたものよりも高い傾向がありました。味覚分析では、素焼きの陶器で醸造されたサンプルのうま味と塩味が高かったことが明らかになりました。これらのことから、日本酒醸造におけるもろみ容器が発酵特性に影響を与える可能性が考えられます。本成果は、2023年12月29日に国際ジャーナル『Foods』にオンライン掲載されました。

1.発表論文
英文タイトル:Glazing Affects the Fermentation Process of Sake Brewed in Pottery
タイトル和訳:陶器で醸造された日本酒の発酵過程における釉薬の影響
著者名:田邊 公一1・2・林 穂乃花1・村上 夏希3・吉山 洋子1・島 純 1・2・庄田 慎矢3・4
所 属:1龍谷大学農学部 2発酵醸造微生物リソース研究センター 3奈良文化財研究所 4ヨーク大学考古学部(英国)
掲載誌:Foods 2024, 13(1)(MDPI社)
URL: https://doi.org/10.3390/foods13010121 ※2023年12月29日Web公開済

2. 波及効果、今後の展開
これまでに酵母株、米、水、または温度管理など、日本酒醸造において直接的に関連する要因が調査されてきましたが、もろみ容器の影響は徹底的に調査されていませんでした。本研究では、釉薬が陶器で醸造された日本酒の発酵特性や味覚に影響を与えることを発見しました。この結果は、現代の日本酒醸造で多く使用されるホーロータンク(鉄製の表面にガラス質の釉薬を焼き付けたもの)であっても、容器の表面が発酵特性に影響を与える可能性があることを示唆しています。
最近、一部の日本酒蔵では、伝統的な手法を守りながら、独自の風味を持つ日本酒を製造するために、もろみ容器として陶器を使用し始めています。本研究の結果は、古代と現代の技術をつなぎ、日本酒醸造に新しい洞察を提供しています。
今後の展開としては、今回の結果をふまえ、さらに清酒もろみを発酵させる容器の素材を調べていきたいと考えています。容器の保温性、透湿性、揮発性を既存の容器のものと変化させることで、発酵速度を調節したり、新たな風味をもつ清酒製造も可能になるかもしれません。

3.用語解説
① 釉薬(ゆうやく)
釉薬(ゆうやく、英語:glaze)とは、素焼の陶磁器の表面に光沢を出し、また、液体の浸透を防ぐのに用いるガラス質の粉末で、焼成によってガラス質の層となる。「うわぐすり」とも言われる。

② 龍谷大学 発酵醸造微生物リソース研究センター
滋賀県の発酵醸造産業を支援することを目指して2021年度に開設。発酵醸造に有用な微生物の収集とデータベースの構築、およびそれらを活用した応用研究の展開を目的として研究活動を展開している。

③ 独立行政法人 国立文化財機構 奈良文化財研究所
昭和27年(1952)に設立された奈良市所在の文化財調査研究機関。特別史跡平城宮跡や飛鳥・藤原宮跡の発掘調査をはじめ、文化財の保存・修復、整備・活用の研究など、文化財の学際的、総合的な調査研究を行なっている。また、これらの成果を生かし、国内外の文化財研究や学術交流、国際支援、地方公共団体の文化財担当職員や海外の研究者を対象とした研修、文化財情報の公開などを推進している。


問い合わせ先:龍谷大学 発酵醸造微生物リソース研究センター
Tel 075-645-2154  hakko-jimu@ad.ryukoku.ac.jp  https://hakko.ryukoku.ac.jp/


123-1.jpg 実験に使用した陶器容器の外観(写真左:釉薬、写真右:素焼き)

123-2.png 表1. 釉薬のかかった陶器(+Glaze)と素焼きの陶器(-Glaze)で醸造した日本酒サンプル中の元素組成。元素分析の結果では、素焼きの陶器サンプルには釉薬の陶器サンプルよりも1.5倍多くのNa+が検出されました。釉薬がかかっていない状態での長期発酵期間中に容器から元素が溶出する可能性が考えられます。