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豊田工業大学(名古屋市天白区)の山口 眞史 名誉教授が、現在の宇宙用太陽電池の主流である高効率インジウムガリウムリン(InGaP)系多接合太陽電池の実用化に大きく貢献した功績が評価され、令和7年春の紫綬褒章を受章。InGaP系多接合太陽電池の開発により、高効率で放射線耐性に優れた宇宙用太陽電池の実用化が可能になり、気象衛星「ひまわり」や宇宙ステーション輸送機「こうのとり」など、世界中の代表的な人工衛星にInGaP系多接合太陽電池が搭載されており、その技術は現代社会に大きく貢献しています。
1. 受章のポイント
〇高効率で放射線耐性に優れたInGaP系多接合太陽電池の開発
新たに提案したダブルヘテロ構造トンネルダイオードと新たに見出した優れた放射線耐性のInGaPを採用することにより、従来の結晶シリコン(Si)太陽電池の効率20~25%に対して、実用効率として35%以上の高効率で2倍以上の放射線耐性を有する多接合太陽電池の実用化に貢献した。
〇研究成果の社会実装
InGaP系多接合太陽電池は、世界中のほとんどの人工衛星に採用されている。また、本研究の成果を活用して実用化されたガリウム(Ga)ドープ結晶Si太陽電池は、地上用で主流の結晶Si太陽電池のシェア7割程度を占めている。
〇クリーンエネルギー社会への貢献
今後さらに、50%を超える宇宙用高効率太陽電池技術の開発やそれら技術を応用することにより、将来のクリーンエネルギー社会基盤の構築に大きく寄与することが期待される。
2. 研究概要
〇高効率で放射線耐性に優れたInGaP系多接合太陽電池の開発
新たに提案したダブルヘテロ構造トンネルダイオードと新たに見出した優れた放射線耐性のInGaPを採用することにより、従来の結晶シリコン(Si)太陽電池の効率20~25%に対して、実用効率として35%以上の高効率で2倍以上の放射線耐性を有する多接合太陽電池の実用化に貢献した。
〇研究成果の社会実装
InGaP系多接合太陽電池は、世界中のほとんどの人工衛星に採用されている。また、本研究の成果を活用して実用化されたガリウム(Ga)ドープ結晶Si太陽電池は、地上用で主流の結晶Si太陽電池のシェア7割程度を占めている。
〇クリーンエネルギー社会への貢献
今後さらに、50%を超える宇宙用高効率太陽電池技術の開発やそれら技術を応用することにより、将来のクリーンエネルギー社会基盤の構築に大きく寄与することが期待される。
2. 研究概要
シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)などの一つの半導体材料で構成された単接合太陽電池の変換効率は、理論的には30%程度が限界である。しかし、宇宙用途では、衛星軌道の安定性などのため小面積で十分な電力が得られる必要があることから、さらに高い変換効率が求められる。この問題を解決するため、光の吸収波長の異なる複数の半導体材料からなる太陽電池を積層し、幅の広い太陽光スペクトルを有効に活用した多接合太陽電池の研究開発が世界的に行われている。その一方で、異なる材料の太陽電池を積層した接合部分において、高効率化の実現に必要な低い抵抗が得られないなどの問題があった。これに対し、複数の太陽電池を接続するトンネル接合層の両側を太陽電池材料と比較して禁制帯幅の広い半導体材料を含む薄い半導体層で挟んだダブルヘテロ構造トンネルダイオード(図1)を提案し、従来の課題を克服した。その結果、太陽光の利用効率を非集光で37.9%、集光下で44.4% (2013年当時世界最高効率)にまで向上させることができた。
一方、宇宙用の太陽電池においては、宇宙空間での使用時に放射線の影響を受けて変換効率が次第に低下する問題がある。この問題に対して、インジウムリン(InP)系の材料が、高い放射線耐性を有する太陽電池用半導体材料であることを発見した(図2)。高効率かつ放射線耐性が高いInGaP系多接合太陽電池に関するこれらの成果は、現在、気象衛星「ひまわり」や宇宙ステーション輸送機「こうのとり」など、世界中の人工衛星のほとんどに、InGaP系多接合太陽電池が搭載されていることにつながっている。
3. 利用実績
高い放射線耐性を有するInGaPを用いた太陽電池は、現在世界中の宇宙機の電源として採用されており、官需の宇宙機、人工衛星にとどまらず民間の商用衛星にも使われるようになっている。
日本においては、以下の宇宙機においてInGaP系太陽電池が採用されている。
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【政府衛星】
・準天頂衛星みちびき(内閣府),運用中,7機体制構築に向け追加機開発中
・気象衛星ひまわり(気象庁),運用中,10号計画中
・準天頂衛星みちびき(内閣府),運用中,7機体制構築に向け追加機開発中
・気象衛星ひまわり(気象庁),運用中,10号計画中
【JAXA】
衛星・探査機
・宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV),全9機のミッション達成
・小型月着陸実証機 (SLIM),ミッション達成
・火星衛星探査計画(MMX),開発中(2026 年打上予定)
・深宇宙探査技術実証機 (DESTINY+),開発中
衛星・探査機
・宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV),全9機のミッション達成
・小型月着陸実証機 (SLIM),ミッション達成
・火星衛星探査計画(MMX),開発中(2026 年打上予定)
・深宇宙探査技術実証機 (DESTINY+),開発中
【民間衛星】
・地球観測衛星StriX(Synspective社),運用中,追加機開発中
・地球観測衛星StriX(Synspective社),運用中,追加機開発中
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気象衛星「ひまわり」や準天頂衛星「みちびき」(測位衛星)などの静止衛星においては、静止系軌道からの画像情報配信や通信などに大きな電力が必要である。しかし、正確な通信や観測には衛星の慣性が小さいことが必要であり、太陽電池の面積はできるだけ小さいことが求められる。加えて、宇宙空間には多く放射線が存在し、それに起因する太陽電池の出力低下が生じる。これに対して、InP系を用いた3接合太陽電池は、高効率であることから、同じエネルギーを得るのに必要な太陽電池面積が小さく、かつ放射線耐性が高く長時間の稼働が実現できるため、現在では宇宙用太陽電池としてなくてはならないものとなっている。
気象衛星「ひまわり」や準天頂衛星「みちびき」が日本の国民生活の向上にもたらしている大きな恩恵に対して、生活基盤を支える必要不可欠の技術として、本研究成果がもたらした貢献は極めて大きい。
また、国際宇宙ステーション(ISS)への日本の輸送機「こうのとり」においては、太陽電池パネルの展開ができない構造のため太陽電池は機体表面搭載が必須である。搭載可能面の面積が大きくとれないためにシリコン太陽電池では発電電力が足りず、InGaPを用いた3接合太陽電池の搭載によってその運用が初めて可能となった。
最近では、上記高効率化合物半導体太陽電池と結晶Si太陽電池を組み合わせた高効率・軽量・フレキシブル性を有した新たな太陽電池の研究にも従事し、電気自動車などの移動体への搭載も可能な太陽電池を研究開発中(NEDOプロジェクト)である。
4. 経歴
昭和43年3月 北海道大学 工学部 電子工学科卒業
昭和43年4月 日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社)入社
昭和43年5月 日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社)電気通信研究所勤務
昭和53年9月 工学博士(北海道大学)
昭和61年1月 日本電信電話株式会社 光エレクトロニクス研究所 研究室長
平成6年4月 豊田工業大学 大学院工学研究科 主担当教授
平成28年4月 同大学名誉教授・シニア研究スカラ
令和2年4月 同大学名誉教授・招聘研究員(現在に至る)
5. 表彰暦
平成9年6月 NASA Irving Weinberg Award 「宇宙用およびタンデム太陽電池の研究開発」
平成16年6月6日 European Commission Becquerel Prize(*) 「高効率多接合太陽電池の研究開発、太陽光発電の研究開発のリーダーシップ」
平成20年5月14日 IEEE William Cherry Award(*) 「InP系太陽電池の耐放射線特性の発見、宇宙用太陽電池および高効率太陽電池研究開発」
平成23年11月29日 PVSEC組織委員会 PVSEC Award(*) 「宇宙用、タンデムおよび集光型太陽電池の研究開発」
平成26年11月24日 WCPEC組織委員会 WCPEC Award(*) 「太陽光発電の科学技術への貢献」
平成27年4月15日 文部科学省 文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)「超高効率太陽電池とその応用に関する先駆的研究」により表彰
(*)太陽光発電に関する世界的に著名な四つの賞全てを受章するのは世界で初めてであり、国際的にも極めて高い評価を得ている。
▼本件に関する問い合わせ先 |
|
広報入試室 渉外広報グループ | |
芹澤 | |
住所 | : 名古屋市天白区久方2丁目12-1 |
TEL | : 0528091764 |
FAX | : 0528091721 |
大学・学校情報 |
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大学・学校名 豊田工業大学 |
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URL https://www.toyota-ti.ac.jp/ |
住所 名古屋市天白区久方2丁目12-1 |
豊田工業大学は、トヨタ自動車の社会貢献活動の一環として設立された大学です。トヨタグループの始祖であり、わが国の産業技術開発の父ともいえる豊田佐吉(1867-1930)の遺訓を建学の理念として掲げ、1981年に誕生しました。豊田佐吉は「発明で社会の役に立ち、国家に尽くしたい」と志し、自動織機の開発に没頭。23歳で豊田式木製人力織機を発明し、初めての特許を取得しました。1924年に完成した無停止杼換式豊田自動織機(G型)は世界中の繊維産業の効率化と高品質化を推し進めました。建学の理念「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」という言葉には、先端的な工学研究を通じた新たな価値創造と社会への還元、また現代社会の課題に率先して挑む実践的な技術者・研究者の育成という、本学の使命が表現されています。 |
学長(学校長) 保立 和夫 |