香川大学

医学部生が筆頭著者として2本目の英文論文を発表!~がん細胞の新たな移動様式「ラッフル縁ラメリポディア」の形成メカニズムを解明~

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 香川大学医学部医学科6年生の森下陽香(もりした はるか)さんが、がん細胞の移動様式に関する研究成果をまとめた英文論文を筆頭著者として発表しました。学部在籍中でありながら2本目の英文論文発表となる快挙であり、一連の研究は、がんの浸潤・転移メカニズムの理解に新たな知見をもたらすものです。
 森下さんは2年次より細胞移動に関わる基礎医学研究を始め、浸潤性の高いがん細胞で、先端に多層になった膜ヒダを持つ特殊な葉状突起(ruffle-edge lamellipodia、RELと略)の存在を発見し、2024年に論文として発表しました。今回、この研究をさらに発展させ、このREL形成と運動に関わる不可欠な因子としてミオシン1E(Myo1E)を同定し、国際学術専門誌『Microscopy』に論文として報告しました。

研究内容:
森下さんは医学部2年次より、組織細胞生物学講座(荒木伸一教授(当時):現理事・副学長)の指導のもと、がん細胞の移動・浸潤に関する基礎研究に取り組んできました。細胞が移動する際に形成する「ラメリポディア(葉状仮足)」は、従来平坦な突起とされてきましたが、森下さんらは先進的な顕微鏡技術を用いた観察により、先端に多層膜ヒダを持ち、アクチン結合タンパク質ACTN4を豊富に含む特殊な構造を発見し、「ラッフル縁ラメリポディア(ruffle-edge lamellipodia:RELと略)」と命名しました。
このRELは、浸潤性の高いがん細胞に特異的に見られ、通常のラメリポディアよりも高い運動能を持っています。また、ACTN4をノックダウンするとRELの形成と細胞移動が抑制されることから、RELががん細胞の浸潤に重要な役割を果たしていることが示されました。この成果は2024年、Elsevier社の学術専門誌『Experimental Cell Research』に掲載されました1)。

さらに今回、RELの形成と運動に関わる新たな分子として、モータータンパク質「ミオシン-1e(Myo1E)」を同定しました。Myo1Eは、細胞膜とアクチン線維をつなぐことで膜形状を変化させ、細胞の運動を促進する役割を担っていると考えられます。浸潤性肺がん細胞株A549を用いた実験では、Myo1EがRELの先端に局在し、阻害剤の添加やRNA干渉によるノックダウンによりRELの形成と細胞移動が著しく抑制されることが超解像顕微鏡や電子顕微鏡観察などにより確認されました2)。

RELの膜ヒダには、細胞外基質を分解する酵素「メタロプロテアーゼ」が存在することから、Myo1Eによる膜運動ががん細胞の浸潤能を高めている可能性が示唆されます。これらの成果は、Myo1Eががんの浸潤性を示すバイオマーカーや治療標的となる可能性を示すものであり、悪性度の高いがんの新たな治療戦略の構築に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2025年9月26日、Oxford University Pressの学術専門誌『Microscopy』に掲載されました(オンライン版・オープンアクセスhttps://doi.org/10.1093/jmicro/dfaf039)2)。
論文情報:
1)Haruka Morishita, Katsuhisa Kawai, Youhei Egami, Kazufumi Honda, Nobukazu Araki:
Live-cell imaging and CLEM reveal the existence of ACTN4-dependent ruffle-edge lamellipodia acting as a novel mode of cell migration. Experimental Cell Research (2024), 442:114232.
https://doi.org/10.1016/j.yexcr.2024.114232
2)Haruka Morishita, Katsuhisa Kawai, Ayaka Noda, Youhei Egami, Nobukazu Araki:
Myosin-1e drives ruffle-edge lamellipodia formation and motility in A549 invasive lung cancer cells. Microscopy (2025), 74: dfaf039. https://doi.org/10.1093/jmicro/dfaf039

▼本件に関する問い合わせ先

香川大学 理事・副学長(教育担当)(医学部 組織細胞生物学 教授 ※2025年3月末まで)

荒木 伸一

TEL

: 087-832-1002

FAX

: 087-891-2092

E-mail

araki.nobukazu@kagawa-u.ac.jp

執筆した論文を手にする森下陽香さん.png 執筆した論文を手にする森下陽香さん

図1.png 図1 A541細胞のMyo1EとACTN4の局在を蛍光免疫法で検出し超解像顕微鏡で観察。(写真はMicroscopy発表論文 より)

図2.png 図2 A541細胞の走査電子顕微鏡画像。左の通常のA541細胞(Control)のラメリポディアには先端には、多層のヒダ(矢印)が観察されるが、右のMyo1Eをノックダウンした細胞(MyoIE KD)には多層のヒダは見られない。スケールバーは10μm。(写真はMicroscopy 発表論文より)