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【昭和医科大学】認知症になると「昨日」や「明日」があいまいに? ― 時間感覚の変化と脳の血流の関係を解明 ―

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昭和医科大学藤が丘病院脳神経内科の二村明德講師らの研究グループは、認知症患者が「昨日」や「明日」といった時間の感覚をどのように感じているのかを調べ、その感覚の変化と脳血流との関係を明らかにしました。
本成果は、2025年10月29日付の英国神経科学誌 『Brain Communications』 に掲載されました。

■研究の背景と目的
 私たちはふだん、「過去」「現在」「未来」といった時間の流れを自然に感じています。
 しかし、認知症になると、「今が何年何月なのか」という現在の日時だけでなく、「昨日のこと」や「明日の予定」といった時間の感覚そのものが曖昧になることがあります。
 今回の研究では、そうした時間の感覚(時間見当識)に着目し、認知症患者ではそれがどのように変化するのか、また脳のどの部分と関係があるのかを調べました。

■研究の内容
 対象となったのは以下の3つのグループです。
・健常者(ND):10名
・軽度認知障害(MCI):10名
・アルツハイマー型認知症(AD):37名

 被験者の方々には、「昨日」「明日」などの言葉を使った短い文を読み、それが「今」からどれくらい離れているかを9段階で答えていただきました。

 その結果、回答パターンから次の3つのグループ(クラスター)に分類できることが分かりました。
・クラスターI(時間を正確に区別できる):ND全員、MCIの半数、ADの約2割
・クラスターII(「過去・現在・未来」とざっくり区別):MCIの3割、ADの3割
・クラスターIII(時間の区別ができない):MCIの2割、ADの半数以上

 さらに、脳血流を画像で調べたところ、脳の内側にある「脳梁周囲領域(pericallosal region)」の血流から、被験者がどのグループに属するかを最大75%の精度で予測できました。

 この脳梁周囲領域には、「帯状回後部」や「楔前部(せつぜんぶ)」という時間見当識と関連の深い脳領域が含まれています。これら領域の脳血流量が、時間の感覚の正確さと関係していると考えられました。

研究の意義
 時間の感覚が曖昧になると、「すぐにやらなければならないこと」も「遠い未来のこと」のように感じられ、日常生活に支障が出ることがあります。
 これまで、アルツハイマー病では「日時が分からなくなる」と言われてきましたが、今回の研究はさらに一歩進み、「過去・現在・未来」の感覚自体が曖昧になること、そしてそれが脳の特定の領域の血流と関連していることを明らかにしました。

■研究者コメント(二村明德講師)
 認知症の患者さんと接していると、「最近のことがよくわからない」「予定がうまく管理できない」といった訴えをよく耳にします。これは単に物忘れの問題ではなく、時間そのものがどのくらい「今の自分に関係しているか」を感じる力が弱まっている可能性があると考えてきました。
 今回の研究では、その感覚の変化が脳の特定の部位と関連していることを示すことができ、現場で感じていた「時間感覚の不思議」を科学的に裏付ける一歩となりました。
 今後は、このような知見が、認知症の早期発見や、生活支援の工夫にもつながっていくことを期待しています。

【論文情報】
・タイトル: The precuneus and posterior cingulate gyrus support temporal orientation in Alzheimer's disease.(アルツハイマー病における時間的認識を支える楔前部や帯状回後部)
・著者: Akinori Futamura, Ryuta Kinno, Yuki Hanazuka, Ryuta Ochi, Akira Midorikawa, Shigeru Kitazawa, Kenjiro Ono, Mitsuru Kawamura.
・掲載誌: Brain Communications
・掲載日: 2025年10月29日
・掲載URL: https://doi.org/10.1093/braincomms/fcaf424


▼本件に関する問い合わせ先
 昭和医科大学藤が丘病院 脳神経内科 講師
 二村 明德(ふたむら あきのり)
 TEL: 045-971-1151
 E-mail: eiju28af@med.showa-u.ac.jp

▼本件リリース元
 学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係
 TEL: 03-3784-8059
 E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp