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中央大学がリアルタイムにデータを処理・記憶するSSDを開発――自動運転やインダストリ4.0に応用

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中央大学理工学部の竹内 健教授のグループは、周辺のメモリからの干渉を補正する技術、メモリセルの劣化にあわせて読み出しのレベルを調整する技術などを開発し、従来の6倍の高速化と5倍の高信頼性を実現したSSD(データを格納するストレージ)を開発した。これにより、医療、農業、流通、交通、電力網などITを用いた社会のさまざまなインフラやサービスで、リアルタイム性に優れた高速かつ高信頼なデータ処理が可能になる。車の自動運転や、インダストリ4.0と呼ばれる製造工場でのITの活用への応用が期待される。

 リアルタイムのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の応用では、高速にデータを処理、記憶、管理する記憶装置(ストレージ)が必要になる。しかし、従来のITではデータを格納するストレージ(SSD)が信頼性と性能にジレンマを抱えていた。すなわち、データの信頼性を高めるために強力な誤り訂正技術を用いると、メモリを読み出す時間が長くなる(読み出し性能が劣化する)という問題があった。

 今回、周辺のメモリからの干渉を補正する技術、メモリセルの劣化にあわせて読み出しのレベルを調整する技術などを開発し、SSDの6倍の高速化と5倍の高信頼化を達成した。高速かつ高信頼にデータを記憶、処理することが可能になり、自動運転、インダストリ4.0などのIoTの応用が実現することが期待される。

◆研究概要
【研究者】
 竹内 健 中央大学理工学部 教授(電気電子情報通信工学科)
【発表(雑誌・学会)】
 本研究成果は、2015年2月22日から26日(米国西部時間)に米国・サンフランシスコで開催された「国際固体素子回路会議(ISSCC 2015)」で発表された。
 論文名:Enterprise-Grade 6×Fast Read and 5×Highly Reliable SSD with TLC NAND-Flash Memory for Big-Data Storage
【受賞】   
 本論文により、筆頭著者の德冨 司(中央大学大学院理工学研究科修士課程1年)が、Silkroad Awardを受賞。Silkroad Awardは、アジア・太平洋地域からの発表者で、今回がISSCCでの初採択となる学生のうち優れた論文に贈られる賞。

【研究内容】
 JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」において、中央大学理工学部 竹内 健教授のグループは、フラッシュメモリを記憶媒体とするソリッド・ステート・ドライブ(SSD)のエラーを低減する技術を開発している。

 フラッシュメモリはHDDや光ディスク、磁気テープなどの記憶媒体と比べて、高速、低電力という利点があるものの、メモリセルに蓄えた電子がリークすることで記憶したデータが失われ、エラーが発生するという問題があった。
 SSDではメモリのエラーをシステム的に訂正する誤り訂正技術が使われているが、信頼性を高めるために強力な誤り訂正技術を用いると、誤りを訂正するために要する時間が長くなり、メモリを読み出す時間が長くなる(読み出し性能が劣化する)という問題があった。

 このような背景のもと、研究チームは3つの革新的技術の開発に成功した。
 まず、あらかじめ記憶したテーブルの情報を参照することで、周囲のメモリセルからの干渉を補正する技術(Quick LDPC)を開発。メモリセルへの電子の注入やリークにより、動的に変化するメモリのしきい値電圧に対して、読み出すレベルを動的に調整し、メモリが劣化した際にも常に最適な条件で読み出しを行う、高感度な読み出し方式(Dynamic Vth Optimization)を提案した。さらに、読み出し中に電子がメモリセルに誤って注入されるエラー効果と、データ保持中に電子がリークするエラー効果という二つのエラー現象を相殺することで、結果として信頼性を高める技術(Auto Data Recovery)を開発した。
 これらの技術により、フラッシュメモリにエラーが生じても、高速かつ高信頼にエラーを訂正することが可能になった。

 今回開発した技術により、さまざまなITのサービスにおいて高速かつ高信頼に大量のデータを記憶・処理することが可能になる。医療、農業、流通、交通、電力網などITを用いた社会のさまざまなインフラやサービスで、リアルタイム性に優れた高速かつ高信頼なデータ処理が実現できる。
 例えば、センサによって周囲の車、障害物、車線などをモニタしながら自動的に運転を行うことが期待される。またインダストリ4.0と呼ばれる製造工場でのITの活用では、高速に動くモーターを、周囲の環境に合わせて最適に調整することができるようになる。

●用語解説
注1)ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)
 記憶媒体としてフラッシュメモリを用いるドライブ装置。ハードディスクの代替としてiPhoneなどのスマートフォン、iPad、パソコンやデータセンタのストレージなどとして広く利用されている。機械的に駆動する部品がないため、高速に読み書きでき、消費電力も少なく衝撃にも強い。このため、頻繁にアクセスされるプログラムやデータをSSDに保存する用途で現在幅広く使われている。

注2)IoT(Internet of Things)
 モノのインターネットと呼ばれるように、人間だけでなく、機器同士、機器と人間の間でさまざまなデータをやり取りすることで、医療、農業、流通、交通、電力網の効率を高める。

注3)インダストリ4.0
 高速に動くモーターを周囲の環境に合わせて最適に調整することで、製造の効率(歩留まり)を高める。

注4)フラッシュメモリ
 データの一括消去が特徴とする半導体記憶装置。電気的にデータの読み書きが可能で、電源を切ってもデータが消えない。

▼研究に関する問い合わせ先
 竹内 健 (タケウチ ケン) 
 中央大学理工学部 教授(電気電子情報通信工学科)
 TEL: 03-3817-7374
 E-mail: takeuchi@takeuchi-lab.org

▼取材に関する問い合わせ先
 加藤 裕幹 (カトウ ユウキ)
 中央大学 研究支援室 
 TEL: 03-3817-1603
 FAX: 03-3817-1677
 E-mail: k-shien@tamajs.chuo-u.ac.jp