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幼少期の「食」の違いはその後の性格を変えるのか?――昭和大学と理化学研究所の研究グループが世界で初めて「食の違いと精神形成の関連性」を発表

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昭和大学歯学部歯科矯正学教室は、理化学研究所脳科学総合センターとの共同研究において、「食」の違いが精神形成に与える影響を調査し、世界で初めてその関連性を明らかにした。なお、この研究内容の詳細は、9月27日(月)から29日(水)までパシフィコ横浜にて行われる「第69回 日本矯正歯科学会」にて、同大歯学部歯科矯正学教室の綿引淳一兼任講師らによって発表される。

 近年、食生活の軟食化とともに、現代人の咀嚼(そしゃく)回数が著しく減少していることが問題視されている。咀嚼回数の減少は、顎の発育低下や肥満、認知症などにも関連性があると指摘されているからだ。その一方で、食生活の違いが成長発育期の脳機能の発達にどのような影響を与えているのかについては、記憶や海馬等に関する研究は散見されても、精神形成に関しての科学的な報告は過去にない。
 
 こうした中、昭和大学と理化学研究所の研究グループは、離乳直後から硬い食事と軟らかい食事を、それぞれ時期を変えて与えるなど、複数の異なったタイプの食事を一定期間マウスに与える実験を実施。その後、行動実験を用いて精神活動に関して詳細な検討を行った。この結果、特に軟らかい食べ物を食べていたマウスで、統合失調症(※1)などの精神疾患と関連性の高いプレパルス抑制試験(※2)をはじめとする、精神活動と関連性の高い複数の行動実験項目において有意な差が認められた。
 特に注目すべき点として、比較的短期間の食事の変化においても精神活動に有意な差が認められたことが挙げられる。これにより、幼少期の食生活の違いは他の環境変化に比べ、短期間であっても脳の情動系の発育に大きな影響を与える可能性があると考えられる。
 
 わが国では、現代の「食」の変化を社会問題としてとらえ、食育基本法の制定など国家レベルでの運動も盛んに行われている。同研究は、軟食傾向にある現代の食生活に警鐘を与え、改めて「食」や「咬合・咀嚼」の大切さを考える契機になるのではないかと期待されている。
 
 なお、この研究内容の詳細に関しては、2010年9月27日(月)~29日(水)までパシフィコ横浜にて行われる「第69回 日本矯正歯科学会」にて、同大歯学部歯科矯正学教室の綿引淳一兼任講師らによって発表される。
 
※1:統合失調症
 「統合失調症」は、躁鬱(そううつ)病と並ぶ二大内因性精神病で、発症は100人に一人といわれており、特徴的な思考障害、感情障害、認知障害などを呈する、未だに原因不明の疾患である。複数の遺伝的要因と環境要因が複雑に相互に作用していると考えられており、環境要因として、飢饉や妊娠中のインフルエンザ感染、冬季出生、周産期障害、母子のRh血液型不適合などが統合失調症の発症率を若干増加させるといわれている。
 
※2:プレパルス抑制試験
 大きな音を聞かせると、通常は驚愕反応(筋肉の動きの大きさで測定)が生じるが、大きな音の前に小さな音を挿入すると、驚愕反応が抑制される。これは「プレパルス抑制」と呼ばれ、注意力の指標として用いられる。統合失調症などの精神疾患の患者では、このプレパルス抑制が低下していることが知られている。
 
【研究機関】
●昭和大学歯学部歯科矯正学教室
 ( 〒145-8515 東京都大田区北千束2-1-1 )
●独立行政法人 理化学研究所脳科学総合センター
  創発知能ダイナミクス研究チーム
  分子精神科学研究チーム
  研究基盤センター 動物実験支援ユニット
  神経蛋白制御研究チーム
 ( 〒351-0198 埼玉県和光市広沢2-1 )
 
▼本件に関する問い合わせ先
 昭和大学歯学部歯科矯正学教室 兼任講師 綿引淳一
 〒145-8515 東京都大田区北千束2-1-1
 TEL: 03-3787-1151