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北里大学が、脳の性差解明に新しい道筋を開く ―雌になるためには遺伝的に雌の脳であることが必要―

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北里大学一般教育部の浜崎浩子教授らの研究グループは、脳を雄に替えた雌のニワトリでは性周期を維持できないことから、雌になるためには遺伝的に雌の脳が必要であることを解明した。

 北里大学一般教育部および大学院医療系研究科の浜崎浩子教授は、(独)国立環境研究所環境健康研究センターの前川文彦主任研究員、東京医科歯科大学難治疾患研究所の田中光一教授、広島大学大学院生物圏科学研究科の都築政起教授、早稲田大学教育・総合科学学術院の筒井和義教授らとの共同研究によって、生殖腺ができる前のニワトリ胚を用いて雄と雌の脳を入れ替えたニワトリを世界で初めて作製した。
 脳が雄で体が雌のニワトリの成鳥では、行動や性ホルモンの血中濃度は雌型であるにも関わらず、性成熟の遅れや産卵周期に乱れが生じることから、生殖機能に障害が現れることがわかった。この結果は、脳の性分化、雌雄に特異的な機能異常や病態の性差が生じる機構の解明に役立つことが期待される。
 この成果は、英国の科学雑誌「Nature Communications」に、2013年1月22日付(英国時間)オンライン版で発表された。
 なお、この研究は、文部科学省科学研究費補助金などの助成をうけ、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として行われたものである。

【研究の背景と経緯】
 ヒトを含む脊椎動物では、雄と雌では体のつくりや生理機能において多くの違いがある。雌では卵巣、雄では精巣の分化・発達が起こり、それぞれの器官から分泌される性ホルモンの働きによって、これらの性差のほとんどが生じることが通説となっている。一方、性分化に別のメカニズムが関与することも近年示唆されるようになってきたが、不明な点が多い。また、ヒトでも様々な脳の疾病で、男性と女性で罹患率や病態が異なることが報告されているが、その原因は必ずしも明らかにはなっていない。

【研究の内容】
 今回、脳の性によって決まる雄と雌の性質を調べるために、脳とそれ以外の身体の性が異なるキメラニワトリを作って解析した。鳥類は卵の中で胚が育つため、外科的操作によって発育初期の胚で脳を交換することができる。脳の交換は精巣や卵巣ができる前に行った。脳が雌で体が雄であるニワトリの行動は、性行動も含めて、雄鶏と区別がつかなかった。脳が雄で体が雌であるニワトリの行動は雌鶏と同じだったが、産卵開始の遅延、さらに産卵周期の乱れによる産卵数の減少がみられた。血中の性ホルモンの濃度が脳の性によって変化することはなかったが、体が雄型か雌型かに関わらず、脳に含まれる女性ホルモンの一種であるエストラジオールの量は雄の脳では雌の脳よりも高いという結果も得られた。

【発見の意義】
 今回の研究成果は、雌を特徴づける性質のうち、性成熟のタイミングと性周期は遺伝的に雌である脳による制御が必要であり、遺伝的に雄である脳ではその機能を完全には担うことができないことを示している。雄と雌の脳には、精巣や卵巣からの性ホルモンに依存せずに、発達様式がもともと異なる神経回路があり、その回路の異常が雌または雄のもつ特異的な機能に障害をもたらす可能性が考えられる。今後このような神経回路を詳細に調べることができれば、脳の性差、性特異的な機能障害の原因、さらに脳疾患の男女差の解明に近づくことができると期待される。


▼本件に関する問い合わせ先
 北里大学 一般教育部生物学
 浜崎 浩子(はまざきひろこ)
 〒252-0373 相模原市南区北里1-15-1
 TEL: 042-778-9454
 FAX: 042-778-9454