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中部大学(愛知県春日井市)応用生物学部環境生物科学科の長谷川浩一教授と博士後期課程1 年の杉山大騎大学院生は、岐阜県恵那市の土壌から高い殺虫能力を備えた昆虫病原性線虫を新たに発見した。発見したのはスタイナーネマ・モンティコラム(株名KHA701)という種に属する新しい線虫。ハチノスツヅリガ幼虫を用いた実験で、殺虫力は高いと知られるヘテロラブディティス・バクテリオフォーラ(Heterorhabditis bacteriophora)を超えること、広範囲の節足動物(ツマグロヨコバイ、マイマイガ、チャバネゴキブリ、ジョロウクモなどを含む18 目41 科63 種)に対して殺虫力を発揮する特徴を示した。
1.研究成果のポイント
■これまでにない高い殺虫力を備えた昆虫病原性線虫(注1)を発見した
■高い殺虫力を持つ細菌を多種類共生させることが、線虫の殺虫力向上のしくみであることを証明した
■殺虫力が異なる共生細菌を人為的に組み替えて、目的の害虫を効果的に駆除する「プログラム可能な生物農薬(注2)
■これまでにない高い殺虫力を備えた昆虫病原性線虫(注1)を発見した
■高い殺虫力を持つ細菌を多種類共生させることが、線虫の殺虫力向上のしくみであることを証明した
■殺虫力が異なる共生細菌を人為的に組み替えて、目的の害虫を効果的に駆除する「プログラム可能な生物農薬(注2)
(Programmable Biopesticide)」の開発につながる成果であり、持続的食料増産を目指した総合的病害管理
(Integrated Pest Management:IPM)(注3)の普及に貢献できる
2.発表概要
農作物を荒らす害虫の防除には今でも主に化学農薬が用いられている。しかし環境への負荷や残留農薬の問題が生じることから、化学農薬の使用量を極力減らし、様々な病害虫対抗手法を組み合わせた総合的病害管理(Integrated Pest Management:IPM)がこれからの農業に重要である。
農作物を荒らす害虫の防除には今でも主に化学農薬が用いられている。しかし環境への負荷や残留農薬の問題が生じることから、化学農薬の使用量を極力減らし、様々な病害虫対抗手法を組み合わせた総合的病害管理(Integrated Pest Management:IPM)がこれからの農業に重要である。
中部大学 応用生物学部 環境生物科学科の長谷川浩一教授と博士後期課程1 年の杉山大騎大学院生は、岐阜県恵那市の土壌から高い殺虫能力を備えた昆虫病原性線虫を新たに発見した(写真1)。
発見したのはスタイナーネマ・モンティコラム(Steinernema monticolum,株名KHA701)という種に属する新しい線虫。
ハチノスツヅリガ幼虫を用いた実験で、殺虫力は高いと知られるヘテロラブディティス・バクテリオフォーラ(Heterorhabditis bacteriophora)を超えること、広範囲の節足動物(ツマグロヨコバイ、マイマイガ、チャバネゴキブリ、ジョロウクモなどを含む18 目41 科63 種)に対して殺虫力を発揮する特徴を示した(写真2)。
昆虫病原性線虫は、特定の昆虫病原性細菌と共生関係を確立することで殺虫活性能力を進化させた線虫グループであり、スタイナーネマ・モンティコラムの共生細菌はゼノラブダス・ホミニキィ(Xenorhabdus hominickii)であることが知られていた。今回発見した線虫スタイナーネマ・モンティコラムは共生細菌ゼノラブダス・ホミニキィに加え、それ以上の殺虫力をもった細菌を多種共生させており、共生する細菌を組みわせることで殺虫力が増強されることもわかった(写真3)。
2024 年の世界人口は約 81 億人、2050 年には 100 億人を突破すると予測されている一方で、世界の農作物の~40%が害虫被害により収穫できなくなっていると言われている。昆虫病原性線虫は生物の力を活用した生物農薬として、化学農薬に替わる環境に配慮した害虫駆除法として期待されている。今回の成果により、世界中の多様な気候・環境で発生する農業病害虫に応じた「Programmable Biopesticide:プログラム可能な生物農薬」の開発につなが
ると期待でき、環境に配慮しながら持続的食料増産を目指す IPM の普及に貢献できる。
2024 年の世界人口は約 81 億人、2050 年には 100 億人を突破すると予測されている一方で、世界の農作物の~40%が害虫被害により収穫できなくなっていると言われている。昆虫病原性線虫は生物の力を活用した生物農薬として、化学農薬に替わる環境に配慮した害虫駆除法として期待されている。今回の成果により、世界中の多様な気候・環境で発生する農業病害虫に応じた「Programmable Biopesticide:プログラム可能な生物農薬」の開発につなが
ると期待でき、環境に配慮しながら持続的食料増産を目指す IPM の普及に貢献できる。
今回の研究成果は英国の科学専門誌 Scientific Reports(電子版)に掲載された。
Sugiyama, T., Hasegawa, K. (2025) Synergistic actions of symbiotic bacteria modulate the insecticidal
potency of entomopathogenic nematode Steinernema monticolum KHA701. Scientific Reports 15,22550.
DOI:10.1038/s41598-025-06488-7
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-025-06488-7?utm_source=rct_congratemailt&utm_medium=email&utm_campaign=oa_20250702&utm_content=10.1038/s41598-025-06488-7
写真1 新しく発見した昆虫病原性線虫スタイナーネマ・モンティコラム(Steinernema monticolum KHA701)。雄と雌の性があり、体のサイズは雌成虫が雄成虫よりも大きい。土壌中では感染態幼虫として存在し、ターゲットとなる節足動物を発見するとその体に張り付いて、口や肛門、気門から体内に侵入し感染する。
写真3 共生する細菌を組みわせることで殺虫力が増強されることを示した実験結果の例。昆虫病原性線虫に共生する細菌の組み合わせは5 パターンで、(1)X.h + X. hominickii:ゼノラブダス・ホミニキィのみ、(2)X.h + E. miricola:ゼノラブダス・ホミニキィとエリザベスキンジア・ミリコラ(Elizabethkingia miricola)、(3)X.h + P. protegens:ゼノラブダス・ホミニキィとシュードモナス・プロテゲンス(Pseudomonas protegens)、(4)X.h + S.marcescens:ゼノラブダス・ホミニキィとセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、
(5)X.h + Staphylococcus sp. :ゼノラブダス・ホミニキィとスタフィロコッカス属細菌。縦軸は昆虫病原性線虫スタイナーネマ・モンティコラムに感染したハチノスツヅリガ幼虫の生存率を示し、横軸は感染してから7 日間の経過日数を示す。
(5)X.h + Staphylococcus sp. :ゼノラブダス・ホミニキィとスタフィロコッカス属細菌。縦軸は昆虫病原性線虫スタイナーネマ・モンティコラムに感染したハチノスツヅリガ幼虫の生存率を示し、横軸は感染してから7 日間の経過日数を示す。
3.用語解説
【注1 昆虫病原性線虫】
殺虫毒素をつくる細菌と共生関係を確立することで殺虫能力を獲得・進化させた線虫で、
スタイナーネマ属グループとヘテロラブディティス属グループが知られている。主に土壌
中に生息し、ターゲットとなる節足動物を発見すると口や肛門、気門から節足動物体内に侵
入したのち線虫体内に共生する細菌を放出する。共生細菌は節足動物の免疫応答を抑制し
ながら毒素を生産して殺虫し、節足動物の死体を栄養にして増殖する。そして線虫は節足動
物の死体と増殖した細菌を餌にして増殖する。節足動物の死体内で線虫頭数が十分増える
と、死体から脱出して次のターゲットとなる節足動物を探索する。
【注1 昆虫病原性線虫】
殺虫毒素をつくる細菌と共生関係を確立することで殺虫能力を獲得・進化させた線虫で、
スタイナーネマ属グループとヘテロラブディティス属グループが知られている。主に土壌
中に生息し、ターゲットとなる節足動物を発見すると口や肛門、気門から節足動物体内に侵
入したのち線虫体内に共生する細菌を放出する。共生細菌は節足動物の免疫応答を抑制し
ながら毒素を生産して殺虫し、節足動物の死体を栄養にして増殖する。そして線虫は節足動
物の死体と増殖した細菌を餌にして増殖する。節足動物の死体内で線虫頭数が十分増える
と、死体から脱出して次のターゲットとなる節足動物を探索する。
【注2 生物農薬】
昆虫、線虫、微生物など生物そのものを活用して、病害虫や雑草を防除・駆除する。天敵
を利用する「天敵農薬」や微生物を利用する「微生物農薬」に分けられる。天敵農薬の例と
して、植物病害虫のハダニを捕食するミヤコカブリダニ、植物病害虫のアザミウマを捕食す
るタイリクヒメハナカメムシ、微生物農薬の例として、植物寄生性線虫に感染する細菌パス
ツーリア・ぺネトランス(Pasteurian penetrans)や、植物病害虫のアブラムシやコナジラミ
に感染する昆虫病原糸状菌バーチシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)が挙げられる。昆
虫病原性線虫は微生物農薬として分類され、実用化されている。
昆虫、線虫、微生物など生物そのものを活用して、病害虫や雑草を防除・駆除する。天敵
を利用する「天敵農薬」や微生物を利用する「微生物農薬」に分けられる。天敵農薬の例と
して、植物病害虫のハダニを捕食するミヤコカブリダニ、植物病害虫のアザミウマを捕食す
るタイリクヒメハナカメムシ、微生物農薬の例として、植物寄生性線虫に感染する細菌パス
ツーリア・ぺネトランス(Pasteurian penetrans)や、植物病害虫のアブラムシやコナジラミ
に感染する昆虫病原糸状菌バーチシリウム・レカニ(Verticillium lecanii)が挙げられる。昆
虫病原性線虫は微生物農薬として分類され、実用化されている。
【注3 総合的病害管理(Integrated Pest Management:IPM)】
現場に応じて利用可能な「有害生物駆除」技術を検討し、そのうえで適切な総合的判断を
講じ、経済的損害の許容範囲まで有害生物の発生を抑えながら、かつ人の健康と環境へのリ
スクを軽減または最小化するところまで殺虫剤等の手段もなるべく抑える技術のこと。化
学農薬のみに頼らず、物理的及び生物的防除法を駆使し、農業病害虫はじめ建物や工場で発
生する衛生害虫管理にも適応される。
4.お問い合わせ先
長谷川浩一 (中部大学 応用生物学部環境生物科学科 教授)
E-mail: koichihasegawa@fsc.chubu.ac.jp
現場に応じて利用可能な「有害生物駆除」技術を検討し、そのうえで適切な総合的判断を
講じ、経済的損害の許容範囲まで有害生物の発生を抑えながら、かつ人の健康と環境へのリ
スクを軽減または最小化するところまで殺虫剤等の手段もなるべく抑える技術のこと。化
学農薬のみに頼らず、物理的及び生物的防除法を駆使し、農業病害虫はじめ建物や工場で発
生する衛生害虫管理にも適応される。
4.お問い合わせ先
長谷川浩一 (中部大学 応用生物学部環境生物科学科 教授)
E-mail: koichihasegawa@fsc.chubu.ac.jp
▼本件に関する問い合わせ先 |
|
中部大学 入試・広報センター(広報課) | |
TEL | : 0568-51-7638 |
写真1 新しく発見した昆虫病原性線虫スタイナーネマ・モンティコラム(Steinernema monticolum KHA701)。雄と雌の性があり、体のサイズは雌成虫が雄成虫よりも大きい。土壌中では感染態幼虫として存在し、ターゲットとなる節足動物を発見するとその体に張り付いて、口や肛門、気門から体内に侵入し感染する。
写真2 (A)スタイナーネマ・モンティコラムに感染する前の元気なハチノスツヅリガ幼虫。(B)スタイナーネマ・モンティコラムに感染したハチノスツヅリガ幼虫の死体、大量の感染態幼虫が死体からあふれ出てきている。(C)B を拡大、ハチノスツヅリガ幼虫の死体から出てきた大量の線虫。(D)ハチノスツヅリガ幼虫の死体を水中でほぐすと、線虫が水中に出てくる。
写真3 共生する細菌を組みわせることで殺虫力が増強されることを示した実験結果の例。昆虫病原性線虫に共生する細菌の組み合わせは5 パターンで、(1)X.h + X. hominickii:ゼノラブダス・ホミニキィのみ、(2)X.h + E. miricola:ゼノラブダス・ホミニキィとエリザベスキンジア・ミリコラ(Elizabethkingia miricola)、(3)X.h + P. protegens:ゼノラブダス・ホミニキィとシュードモナス・プロテゲンス(Pseudomonas protegens)
大学・学校情報 |
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大学・学校名 中部大学 |
![]() |
URL https://www.chubu.ac.jp/ |
住所 〒487-8501 愛知県春日井市松本町1200 |
愛知県春日井市にある中部大学は、1964年に設置された私立大学です。 「不言実行、あてになる人間」の育成を建学の精神とし、約43万㎡の丘に広がる豊かな自然に恵まれた美しいキャンパスには、文系・理系・医療系・教育系の8学部27学科4専攻で学ぶ1万人を超える学生が集っています。 |
学長(学校長) 前島 正義 |