昭和医科大学

【昭和医科大学】足腰の衰えがメタボを招く? 働く世代を6年間追跡し判明したロコモとメタボの意外な関係

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昭和医科大学(東京都品川区/学長:上條由美)の吉本隆彦准教授(医学部衛生学公衆衛生学講座)らは、自動車製造業で働く日本人労働者4,301人を最長6年間追跡し、ロコモティブシンドローム(ロコモ)が将来のメタボリックシンドローム(メタボ)発症リスクを1.34倍高めることを明らかにしました。一方、メタボはロコモの発症と有意な関連を示さず、「足腰の健康」を維持することがメタボ予防の出発点となる可能性が示されました。本研究成果は国際学術誌『Preventive Medicine』(2025年6月20日公開)に掲載されました。

研究の背景・目的
 高齢化と定年延長によって就労を継続する高年齢労働者が増加しており、労働者の運動器の衰えは怪我や転倒、さらには早期退職につながる懸念があります。ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)とは、加齢や生活習慣などにより骨・関節・筋肉などの運動器機能が衰え、移動能力(立つ・歩くなど)が低下した状態を指し、転倒や要介護へ進むリスクと関連します。近年は高齢者にとどまらず働く世代でもその影響が注目されています。
 一方、メタボリックシンドローム(以下、メタボ)は心血管疾患の主要リスクであり、個人の健康だけでなく医療費を圧迫する重要課題です。両者は運動不足・慢性炎症・肥満といった共通要因を持つものの、就労世代におけるその相互関係については解明されていませんでした。本研究では、製造業に従事する社員の定期健診データを用い、ロコモとメタボの因果関係を時系列で検証しました。

研究内容および成果
 本研究は、吉本隆彦准教授(昭和医科大学医学部衛生学公衆衛生学講座)、篠崎智大准教授(研究当時:東京理科大学工学部、現所属:東京大学大学院情報学環)、松平浩医学博士(テーラーメイド腰のクリニック)らによる共同研究チームが、日産自動車株式会社(本社・九州支部)の社員に毎年実施される定期健診データ(2016~2022年度)を用いて、ロコモとメタボの相互関係を明らかにすることを目的に実施したものです。
 2016年時点で定期健診を受診した40歳以上の労働者5,010人を対象に、その後のロコモとメタボの有無を6年間追跡しました。ロコモは片脚立ち上がりテスト、ツーステップテスト、GLFS-25質問票*¹のいずれかの基準を満たす場合と定義(各指標ごとにも分析)し、メタボは本邦の診断基準(腹囲+血圧・血糖・脂質の3要素中2要素)で判定しました。Cox比例ハザードモデル*²でロコモ→メタボ、メタボ→ロコモの両方向を解析しました(年齢・性別・喫煙・飲酒・身体活動を調整)。また、サブ解析として、COVID-19流行前に限定した解析(2016~2019年度)や、毎年欠かさず健診を受診した者のみの解析も行い、結果の頑健性を確認しました。
 その結果、研究開始時にメタボではない4,301人のうち、追跡期間中に20.4%がメタボを発症しました。解析の結果、ロコモがあるグループは、ないグループに比べてメタボの発症リスクが1.34倍高いことが判明しました(調整済ハザード比[HR] 1.34, 95%CI 1.16-1.55)。さらに、片脚立ち上がりテストやツーステップテストで運動機能の低下がみられるグループでは、リスクが1.58倍および1.75倍と、より高くなることが示されました。
 一方、研究開始時にロコモに該当しない3,359人の38.5%が新たにロコモを発症しましたが、メタボはロコモ発症と有意な関連を示しませんでした(調整済HR 1.07, 95%CI 0.88-1.31)。感度解析でも結果は一致し、COVID-19パンデミックの影響は限定的と示唆されました。
 本研究は、日本運動器学会学術プロジェクトの助成金により実施されました。

研究成果のポイント
1. 働く世代で初めて ロコモが将来のメタボを招くことを縦断的に実証。
2. メタボからロコモへの影響は有意でなく、足腰の健康維持が先行的な予防戦略になる可能性。
3. 片脚立ち上がりとツーステップテストはハザード比が高く、職域健診に組み込みやすい簡易スクリーニングとして有用。
4. 企業の特定保健指導や健康経営で、ロコモチェックと運動介入を推進するエビデンスを提供。

社会的意義
 定年延長により就労期間が伸びる中、企業は高齢労働者の就労可能な年数をいかに確保するかが課題となっています。本研究はロコモがメタボの発症につながる可能性を明らかにしました。厚生労働省の「第14次労働災害防止計画」では、労働者の身体機能維持の施策を推奨しており、本成果は職域健診へのロコモチェックの導入を後押しするものです。

用語解説
*1 GLFS-25質問票
 ロコモティブシンドローム(運動器の障害により移動機能の低下をきたした状態)のスクリーニングツールとして用いられる質問票。具体的には、痛み、生活動作、社会参加、心理面などに関する25項目について、0点から4点の5段階で自己評価を行い、合計点を算出することで、ロコモのリスクを評価する。

*2 Cox比例ハザードモデル
 生存時間分析において、ある事象(例えば、死亡や病気の再発など)が発生するまでの時間に影響を与える要因(説明変数)を解析するための統計手法。

掲載論文
タイトル:Bidirectional association between locomotive syndrome and metabolic syndrome: A 6-year longitudinal study in Japanese workers
著者:Takahiko Yoshimoto, Tomohiro Shinozaki, Ko Matsudaira
雑誌:Preventive Medicine 198: 108334, 2025
DOI:10.1016/j.ypmed.2025.108334

吉本隆彦准教授のコメント
 本研究は、"足腰の健康"の維持がメタボ予防の起点であることを科学的に示しました。立ち上がりテストなどの簡易指標を健康診断に組み込み、早期に運動介入へつなげれば、健康で働き続けられる労働者が増えるとともに、医療費の抑制も期待されます。高年齢労働者の割合が増えるこれからの時代には、運動機能の低下を年のせいにして済ませず、就労世代においてもロコモがもたらす影響を認識し、メタボ対策と同様に運動機能の評価・介入を普及させることが望まれます。



▼本件に関する問い合わせ先
 昭和医科大学 医学部衛生学公衆衛生学講座 准教授
 吉本 隆彦
 TEL: 03-3784-8134
 E-mail: yoshimotot@med.showa-u.ac.jp

▼本件リリース元
 学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係
 TEL: 03-3784-8059
 E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp