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中央大学と株式会社十川ゴム、株式会社エヌ・ワイ・ケイは産学連携で浮体式波動抑制装置「タンクセイバー・波平さん」を開発した。これは、やや長周期地震動の揺れに起因した貯水槽破壊から「命の水」を守るために研究されたもの。既存の貯水槽の中に浮かせるだけの簡単かつ安価な施工で貯水槽の耐震性能を飛躍的に向上させ、損壊を防ぐ。2014年8月から販売を開始している。
【研究内容】
「やや長周期地震動」が発生すると、貯水槽に貯えられた水の液面が大きく揺動して、貯水槽を損壊させることがある。東日本大震災では仙台市内の公立小中学校で196校中の32%にあたる62校で貯水槽の破損被害が発生し、その内11校で貯水槽が完全に破壊。手洗いや、洗面、歯磨き等の日常の衛生面での水の使用ができなくなり、感染症の発生が懸念されるに至った。さらに、仙台医療センターをはじめとする災害拠点医療機関で、貯水槽の破壊による患者受付停止、震源から遠い茨城県つくば市でも5箇所以上の貯水槽の破壊等があり、貯水槽の破壊については多数確認されている。
この原因は、2~5秒周期の長いゆっくりとした揺れである。ゆっくりとした揺れが引き起こすこの現象は「スロッシング現象」と呼ばれている。同様の破壊被害は1978年の伊豆大島近海地震や同年の宮城県沖地震、1995年の阪神淡路大震災、2007年の能登半島地震においても多く確認されている。
貯水槽はなぜ大きく壊れたのかに関し、2012年から中央大学と素材メーカである株式会社十川ゴム、タンク製造メーカである株式会社エヌ・ワイ・ケイの異業種が、大学を中核としての産学連携研究グループを構成。貯水槽破壊の原因の究明と今後の対応、具体的には既存の貯水槽の耐震性向上のための制振装置開発プロジェクトを開始した。
研究グループでは、最新の基準で設計・製作されていた貯水槽が壊れていることに鑑み、既存の貯水槽の耐震性能の向上を目指し、施工性の向上を最優先とし、かつ経済性と衛生面を追求しての制振装置の開発を行ってきた。小型模型から実物大の貯水槽(3m×3m×3m)であるステンレス製パネルタンク、FRP製パネルタンク、鋼板製一体形タンクの3種類を使っての振動実験を行った。その結果、最大波高を1/3程度まで抑えることを可能とした、8の字形パネルを組み立てる方式での浮体式波動抑制装置を考案。この抑制装置の制振メカニズムは、液体が抑制装置のスリットを通過するときに抵抗力が生じ、水の粘性が見掛け上大きくなることを利用したものである。これにより減衰が付加され、流速を抑えて波高を低減することができる。素材は、柔軟性のある耐塩素性を有する特殊ポリエチレン樹脂で成型した板状部材と、それを8の字状に組むための接続部材で構成されている。この板を8の字状に曲げてSUSボルトで接合し、現地で製作・設置するものである。
ここで取り上げた貯水槽は、病院や学校など、いざというときに避難場所等になる重要施設に必ず設置されており、ライフラインとして重要な構造物の一つである。水が使えなければライフラインが閉ざされ、被災地域全体に大きな影響を及ぼすことになる。そのため、貯水槽にスロッシング現象が発生しないような制振対策を施すことが必要である。
浮体式波動抑制装置の特徴は以下の通り。
●優れた制振性能
⇒波高を半減する(スロッシング振動のみならずバルジング振動へも効果を発揮)
●衛生性に優れた樹脂製
※基準の厳しい純水装置や飲料水にも使える特殊柔軟性ポリエチレン樹脂を採用
●軽量で柔軟性があり、人が簡単に持ち運べ、簡単施工で簡単設置可能
※パネル同士をSUSボルトで接続するだけで簡単に組立て、水槽内に置くだけ。
⇒水槽内に水を入れると浮遊した状態となる。
●基本的にメンテナンスフリー(高耐久性)
人が踏んでも割れることなく、耐久性に優れ、水面下ではほとんど劣化することはない。
【公的資金】
・独立行政法人科学技術振興機構A-STEP(シーズ顕在化タイプ):スロッシングによる矩形受水槽の被害メカニズムの解明とその減衰対策の研究、2012年
・独立行政法人日本学術振興会科学研究費・基盤研究 (B)(研究代表者:平野廣和):スロッシングで被害を受けた貯水槽の原因究明とその制振対策に関する研究、課題番号:25289140、2013~2015年度
【産業財産権】
・スロッシング制振方法及び制振装置、特許 特願 2012-174163、平野廣和、井田剛史、連重俊、石川友樹、学校法人中央大学、株式会社十川ゴム、株式会社エヌ・ワイ・ケイ、20120806
【納入実績】(2015年2月15日現在)
●施工済
横須賀市立市民病院(2014.8 施工)神奈川県横須賀市
某施設ビル(2015.1 施工)東京都文京区
若葉台ワーズワースの丘(2015.2 施工)東京都稲城市
●施工決定
医療法人社団クレド さとうクリニック(2015.3 施工決定)千葉県若葉区
静岡県内某大学(2015.3 施工決定) 静岡県浜松市
社会福祉法人 慈正会 虹の里(2015.4 施工決定)川崎市麻生区
横須賀市内大型病院(2015.8 施工決定)神奈川県横須賀市
マンション5棟(2015 施工予定)座間市内
大型マンション2棟(2015 施工予定)横須賀市内
▼研究に関する問い合わせ先
(メールアドレスの「◎」は「@(半角アットマーク)」に置き換えてください)
中央大学総合政策学部 教授
平野廣和(ヒラノ ヒロカズ)
TEL/FAX: 042-674-4170
E-mail: hirano◎tamacc.chuo-u.ac.jp
株式会社十川ゴム 研究開発部
井田剛史(イダ ツヨシ)
TEL: 072-236-5154
E-mail: tsuyoshi-ida◎togawa.co.jp
株式会社 エヌ・ワイ・ケイ
石川友樹(イシカワ トモキ)
TEL: 03-3281-1946
E-mail: ishikawa◎nyk-tank.co.jp
▼広報に関する問い合わせ先
中央大学 研究支援室
加藤裕幹(カトウ ユウキ)
TEL: 03-3817-1603、
FAX: 03-3817-1677
E-mail: k-shien@tamajs.chuo-u.ac.jp
大学・学校情報 |
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大学・学校名 中央大学 |
![]() |
URL https://www.chuo-u.ac.jp/ |
住所 東京都八王子市東中野742-1 |
学長(学校長) 河合久 |