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花の形の多様性を創出する原理を発見 ~左右対称な花を形づくる仕組みを計算機シミュレーションから予測 -- 大阪大学

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【研究成果のポイント】
◆花びらの数と空間的配置の多様性を生み出す発生過程の特徴を発見
◆花器官の配置に影響する因子はこれまで複数知られていたが、配置の多様性に果たす各因子の役割を花の発生過程の計算機シミュレーションから予測
◆花の形という身近な主題について、多様性を生み出す原理を解明することで、基礎科学研究の面白さへの理解が深まることが期待

◎概要
 大阪大学全学教育推進機構の北沢美帆助教と大学院理学研究科の藤本仰一准教授らの研究グループは、花びらをはじめとする花器官※1の配置の多様性を生み出す花の発生過程の特徴を世界で初めて明らかにしました。私たちの身近にある花の形は種ごとに極めて多様な形を示します。ランやマメやキンギョソウなどは、花びらが左右対称に配置し、数や配置は種ごとに異なります(図)。
 これまで、花が発生する時に花器官の配置を複数の因子(遺伝子や花の外側にある器官)が抑制することは知られていましたが、これらの因子が配置の多様性をどう実現しているかについては解明されていませんでした。
 今回、北沢助教と藤本准教授らの研究グループは、各因子による抑制効果を新たにモデルへ導入して、計算機シミュレーションを行いました。その結果、これら因子が左右対称な花器官の数と配置の多様性をどう実現しているかが分かり、花の咲く植物(被子植物)全体をおおよそ網羅する制御機構を包括的に再現することに成功しました。私たちが身近に感じる多様な花の形を生み出す原理を解明することで、植物の発生や進化の過程の理解が進むとともに、基礎科学研究の面白さの理解がさらに深まることが期待されます。
 本研究成果は、英国科学誌「Development(2020年1月22日付)」(オンライン)に公開されました。

◎研究の背景
 花のかたちは極めて多様で、その多様性は花びらなど花器官の数と空間的な配置に現れます。花びらの数は、ランなどの3枚、アブラナ(菜の花)などの4枚、あるいは、サクラなどの5枚を示す種が大多数です。花びらが5枚の花でも、配置は種によって異なり、サクラなどは放射対称性を示すのに対して、キンギョソウやマメなどは左右対称性を示します。加えて、キンギョソウは花の背側に花びらを2枚つけるのに対して、マメは花の背側に花びらを1枚つけるなど、系統ごとに特徴を持ちます(図)。また、4枚の花びらを左右対称に配置する花でも、アブラナは2枚、オオイヌノフグリは1枚の花びらを花の背側につけます。3枚の花びらを左右対称に配置する種(単子葉植物)の多くは、花の背側に1枚の花びら(内花被片)をつけます。左右対称な花器官の配置は、花粉を媒介する昆虫や鳥の左右対称な形に合うように進化を経て多様化し、系統※2を代表する花の形となっています(図)。花の対称性は、多くの場合、花の発生において花器官が出現した時に決定され、複数の遺伝子や花の外側にある器官(図の右)が花器官出現を抑制することが報告されていました。しかしながら、これらの因子が花器官配置の多様性をどう実現するかは不明なままでした。
 北沢助教と藤本准教授らの研究グループでは、花の発生において生じる器官配置の過程を数理モデルにより研究してきました。今回、各因子による抑制効果を新たにモデルへ導入して、計算機シミュレーションを行いました。その結果、これら因子の抑制の相対的な強さに応じて、多様な花器官の数と配置が実現することを見出しました。系統関係が近い種(キンギョソウとオオイヌノフグリなど)については、花器官配置を実現する抑制の強さの条件が互いに近接しうることもわかりました。すなわち、花の咲く植物(被子植物)全体をおおよそ網羅する花器官配置を包括的に再現することで、多様な配置を創出かつ制御する仕組みを予測しました。

◎本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
 本研究成果により、様々な植物種が多様な花の形へ進化する際に生じた発生過程の変化を統一的に予測できるようになりました。花の形の多様性という身近な現象を生み出す原理を解明することで、自然現象の不思議への興味を誘引し、基礎科学研究の面白さが社会へ波及し、不思議を解き明かそうという意欲がさらに増進することが期待されます。

◎特記事項
 本研究成果は、英国科学誌「Development(2020年1月22日付)」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:''A design principle for floral organ number and arrangement in flowers with bilateral symmetry''
著者名:#Aiko Nakagawa, #Miho S. Kitazawa, and Koichi Fujimoto (#同等な貢献)
Doi : 10.1242/dev.182907

 なお、本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型)「進化の制約と方向性」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「植物発生ロジック」、日本学術振興会(JSPS)基盤S「植物発生進化のグランドプランとしての細胞分裂軸制御機構とその時空間制御機構の解明」による支援を受けて行われました。

◎用語説明
※1 花器官
 花を構成する器官は、外側からがく(萼)、花弁(花びら)、雄しべ、雌しべが同心円状に配置します(図)。単子葉植物などでは、がくと花弁の違いがはっきり現れず、花被片と呼ばれます。今回の研究では、多くの種で固有の数を示すがくと花弁を対象としました。

※2 系統
 生物の進化の道すじを反映した種間の関係。現在は、DNA配列に基づき系統関係を決定する方法が主流となりつつあります。花咲く植物(被子植物)は複数の系統に分かれており、その中で左右対称な花器官配置を示す主な系統は、単子葉類と真正双子葉類です。真正双子葉類は、バラ類とキク類の系統に主に分かれます(図)。

【研究者のコメント】
 私たちが身近に感じる花の形の多様性の背後に潜む原理を、私たちは数学や物理学や化学や生物学などの理学を融合することで理解を目指しています。

0210大阪大学.jpg 図 花器官の数と配置の多様性 花びら(花弁)とがくの左右対称な配置は、それぞれの系統ごとに特徴を持つ。花の背側に主軸(●で表す)があり、多くの場合、咲いた花の上側に対応する。ランは、花の発生過程で花の上下が反転し、花の下側が背側となる。