昭和医科大学

あえて「臭く」進化した花たちのニオイを生み出す仕組みを解明 ― 虫を呼ぶために複数の植物で収斂進化していた!

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昭和医科大学(東京都品川区/学長:久光正)の柿嶋聡講師(富士山麓自然・生物研究所)、国立科学博物館の奥山雄大研究主幹らによる共同研究チームは、国立遺伝学研究所、長野県環境保全研究所、宮崎大学、東北大学、情報・システム研究機構ライフサイエンス統合データベースセンター、龍谷大学、慶應義塾大学の研究者らと共同で、腐った肉のような臭いニオイで昆虫をだまして花粉を運ばせる(腐肉擬態)花が、臭いニオイの成分「ジメチルジスルフィド(※1)」を生み出すメカニズムを解明し、またその機能を獲得する進化がわずかなアミノ酸置換でもたらされることを実験的に示すことに成功しました。さらに、そのメカニズムを担う酵素がカンアオイ属(※2)、ヒサカキ属(※3)、ザゼンソウ属(※4)という全く異なる植物で独立に進化、獲得されていることを発見しました。これは、花による腐肉擬態というユニークな現象が、どのような成り立ちで進化しうるのかを明快に説明できた類い稀な成果といえます。本研究成果は、2025年5月8日刊行のScience誌に掲載されました。

【研究のポイント】
1. カンアオイ属を対象に、花の臭いニオイ成分「ジメチルジスルフィド」を含む種と含まない種の間で比較研究を行い、臭いニオイの生合成に関与する複数の遺伝子を特定。

2. 特定した遺伝子の一つがジメチルジスルフィドを生合成する新発見の酵素の遺伝子であることを解明し、これをジスルフィドシンターゼ(DSS)と命名。

3. DSSの機能は陸上植物が共通して保有する祖先的な酵素メタンチオールオキシダーゼからわずかなアミノ酸配列の変化で獲得されることを解明。

4. DSSはカンアオイ属だけでなく、全く異なる植物のグループであるヒサカキ属、ザゼンソウ属でも独立に進化し、全く同じプロセスを経て同じ機能を持つ酵素を獲得(収斂進化)したことを発見。

5. 植物園が戦略的に収集して維持しているリビングコレクション(生植物)が、未知の生命現象を解き明かすために決定的に重要な役割を果たしうることを示した。

※「研究の背景」や「研究の内容」、「今後の展望」など、研究成果の詳細については、添付プレスリリース(PDF)をご参照ください。

【用語解説】
※1 ジメチルジスルフィド(DMDS)
 腐った肉や肉食動物の糞などの臭いにおいの主成分の一つで、硫黄を含む分子。バクテリアが動物性タンパク質を分解する際に多く発生する。一般的にはヒトの鼻には悪臭として捉えられるが、チーズや食肉にもわずかに含まれており、微量であれば逆に食欲を刺激することが知られている。ハエが強く誘引されるにおい物質でもあり、ハエに受粉されるショクダイオオコンニャクやラフレシアなどの花からも多く放たれる。

※2 カンアオイ属
 カンアオイ属はウマノスズクサ科の植物の一群で、葉の下で、地面すれすれに花を咲かせるのが特徴。この花はまるで世界最大の花として知られるラフレシアのミニチュアのようで、実際にラフレシアの花と同じように臭いにおいを放つものがある。カンアオイの名前は「寒葵」に由来し、これは徳川家の家紋のモチーフとなっている葵(フタバアオイ)に近縁で、冬でも葉が残る常緑性であることにちなむ。

※3 ヒサカキ属
 ヒサカキ属はモッコク科の植物の一群で、その一種ヒサカキは本州以西にごく普通に自生する低木。生垣によく用いられるほか、特に東日本では神事に用いる榊の代用としても用いられる。早春に開花し、この時期にはあたり一面にたくわん漬けのような強い香りを漂わせる。

※4 ザゼンソウ属
 ザゼンソウ属は、サトイモ科の多年草の一群で、北東アジアから北米に広く分布する。その一種ザゼンソウは雪深い地域の湿地に自生し、早春、雪解けとともに開花する。花は熱を発し、臭いにおいでハエの仲間を誘う。その名は開花した株の姿が座禅を組む僧侶に似ることにちなむ。

【発表論文】
・タイトル: Convergent acquisition of disulfide-forming enzymes in malodorous flowers
・著者: Okuyama, Y., Fukushima, K., Kakishima, S., Valchanova, A. K., Takano, K. T., Ito-Inaba, Y., Nakazato, T., Nagano, A. J.
・掲載誌: Science
・掲載日: 2025年5月8日
・DOI: 10.1126/science.adu8988

 本研究の一部は、科研費(JP19H03292, JP20H02917)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR21D3)の助成の支援のもとで行われました。

▼本件に関する問い合わせ先
・昭和医科大学 富士山麓自然・生物研究所
 講師 柿嶋 聡
 E-mail: kakishima@cas.showa-u.ac.jp

・独立行政法人 国立科学博物館 植物研究部多様性解析・保全グループ
 研究主幹 奥山 雄大
 E-mail: yokuyama@kahaku.go.jp

▼本件リリース元
 学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係
 TEL: 03-3784-8059
 E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp

0502昭和医科大学1.jpg 図1:腐肉擬態花の模式図。腐肉擬態花は、腐った肉や肉食動物の糞から出るのと同じジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドといったにおい成分を放ち、花粉を運ぶハエなどの昆虫を誘き寄せる。

0502昭和医科大学2.jpg 図2:本研究で明らかにした「臭い花」のにおい成分「ジメチルジスルフィド(DMDS)」の生合成経路。これまで、DMDSはメタンチオールが酵素反応を経ずに酸化して生じると考えられていたが、この反応を担う酵素ジスルフィドシンターゼ(DSS)を発見した。 MGL:メチオニンガンマリアーゼ。 MTOX:メタンチオールオキシダーゼ。

ランヨウアオイ.jpg 図3:ランヨウアオイ(カンアオイ属の一種)